テキストサイズ

シャイニーストッキング

第16章 もつれるストッキング5  美冴

 2 帰社

 あまりにも的外れな越前屋さんの言葉に大爆笑してしまい…
 あ、いや、この大爆笑のおかげで、心のモヤモヤがどこかに吹き飛んだようであった。

「そう、そうよねぇ…
 だから明日頑張ってアタックしてみたらぁ…」
 そしてすぐに、こんな軽口を言えたゆかりさんは、少なくとも、自分の心のザラつきは消えたのだろう思われ…
 いや…
 開き直れた…みたい。

「えぇ、そんなぁ、アタックなんてぇ…」
「そうよ、もしかしたら…が、あるかもよぉ」
「もぉ、やめてくださいよぉ」
 本当に満更でもないようだ。

 そして愉快に盛り上っている間に、タクシーが到着した。

「ただいまですぅ」
 越前屋さんはタクシー内のテンションのままに、コールセンター部に間借りしている『新プロジェクト準備室』のドアを開けるなりそう元気に明るく入っていく。

「あ、お疲れ様です」
 越前屋さんに続いて入っていくと…
 やはり、満面の笑みを浮かべた、今の、わたしの、愛しい男である武石健太が迎えてきた。

「あ、美冴さん、ゆかり室長、お疲れ様です」

「え、うん、ただいま…」
 わたしの心はそんな彼の笑顔に一気に緩み、ホッとする。

「あ、ゆかり室長、別に何も無いんでスタッフのみんなは定時で帰らせました」
 そう、終業の定時は五時半。

「うん、大丈夫よ、あ、それより健太たちも帰っちゃって良かったのに」
 と、わたしの後ろから、ゆかりさんがそう言ってきた。

「え、あ、いや、ゆかり室長を差し置いて先に上がる訳にはいきませんから」
 と、健太がそう返すと…
「ええぇ、違うでしょう、美冴さんを待っていたんでしょう…
 ホント調子がいいんだからぁ」
 そう美冴さんはすかさずツッコミを入れる。

「え、あ、い、いや、それは…」
 どうやら図星だったらしく、健太はわかりやすく狼狽える。

「あら、もお…」
 それにはわたしも一気に恥ずかしくなってしまう。

 ヤバい、今度は越前屋さんから、わたしたちがからかわれちゃう…
 一瞬、そう焦ったのだが。

「あ、お疲れ様です」
 と、健太の後ろから、伊藤敦子さんが顔を見せてきた。

「あ…う、うん…た、ただいま…」

 その瞬間…
 ほんの一瞬、今度はゆかりさんが…揺らぎをみせる。

 いいや、明らかに…揺らいだ。
 
 そしてわたしも、ドキっとした…



ストーリーメニュー

TOPTOPへ