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シャイニーストッキング

第16章 もつれるストッキング5  美冴

 23 まったく…

 タバコの煙に滲みた一滴の涙…

 それはまるで、ゆうじからのシグナル…

 ズキズキズキズキズキ………

 そうなの…ゆうじ………

『まったく…』

 まったく………

 そう、そもそもの、今日の常務室での対峙の時に感じたあの疑惑の…
 いや、松下秘書との疑いようのない不貞の露わと顕れの動揺と慌てぶり。

 それが…
 今夜のわたしの『ひがみ』という、自分自身を卑下してしまい、嫌が応もなく心の小ささと穢れを自覚してしまう、きっかけとなったから。

 そしてもうひとつ…
 また、治まったと思っていた『自律神経』の疼きが昂ぶってしまった。

 そう、そもそもが、全部が…
 あなたのせいなのよ……

 あなたの、大原常務のせいで…
 今夜、一人、こうしてこの店に、心をリセットしに来たのよ…

 まったく………

「あっ」
 すると…
 ある想いが脳裏過り、そして心に囁いてきて、わたしは思わず声を漏らしてしまう。

「あ…え…ど、どうした…」
 すっかり萎縮した彼は、ふと顔を上げ、何事か、と、わたしを見る。

 え、ゆうじ、そういうことなの…

 また…

「え…」
 彼の目が、わたしの目の色の変化に気付いたみたい…

 ズキズキズキズキズキズキ…

 ゆうじ…

 そうなの…

 彼に…

 大原常務にまた…

「……だったら、わたしが…」

 またあの夜みたいに…

 タバコの煙がゆらゆらと周りを漂い…

 カラン…
 わたしのカクテルグラスの中の氷が小さく溶けて、隙間に落ちる。

 そうなのゆうじ…

「……だったら、わたしが……
 あの時に…
  ゆかりさんから盗っちゃえば……
    奪っちゃえば……よかった………」

 そうなのゆうじ、また、彼に…

 鎮めてもらえってことなの……




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