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シャイニーストッキング

第16章 もつれるストッキング5  美冴

 37 欺瞞の再燃

 そう…
 ストッキングごと食べて、愛して、狂わせて欲しいから…
 この自律神経の暴走からの欺瞞の衝動と、フェチの昂揚を鎮めて欲しいのだ。

「あ、そうだよな……つい…」
 彼はそう呟き、わたしの目を見つめ…
「すっかり興奮しちゃったから…」
 と、少し恥ずかしそうな笑みを浮かべ…
 スッと唇をせてキスしてくる。

 そして…
「だよな…さあ……」
 と、わたしの手を握り、立ち上がらせ…
「ベッドに行こうか…」
 リビングに向かう。

 玄関からは真っ直ぐにリビングのドアが見え、その手前右側にはランドリールームとバスルーム、左側にトイレという典型的な2LDKの造りが伺える…

 ガチャ…
 そしてリビングのドアを開くと…

「え…」
 いや、リビングのドアを開いた瞬間に、一瞬、微かなシャネルの残り香を感じ…たような…

「なんか飲むか?」
「え……あ…ううん…」
 わたしは首を振り…
「なんか予想外にキレイ、片付いてる…」
 と、呟いた。

 それは、一瞬、感じたような、あのシャネルの残り香…
 つまり、松下秘書の香り、いや、彼女の存在感の芳香に、もう既に彼女が足繁くこの部屋に通っているのでは、との疑惑の問いかけの意味での呟き。

 だが…
「あ、月、水曜と週二回、家政婦を頼んであるから…」
 と、また、予想外で、そして現実的な答えが返ってきた。

「ふうん、そうなんだぁ」
「あ、うん…」
 彼はこの不惑溢れる声音の応えに、ウラの疑惑を感じ取ったようであった。

「ふうん…」
 そしてわたしはそう呟きながら、このリビングを一瞥する。

「さぁ…」
 するとサッと手を引き、ベッドルームへと導いてきた。

 それはまるで、わたしが現実に醒めてしまうのを怖れるかのように…
 そしてほんの一瞬だが、さっき迄の昂ぶりが醒めるような感覚と、二人の顔が…
 そう、ゆかりさんと松下秘書の顔、姿が浮かんだのだ。
 
 それは『あの二人もこのマンションを訪れているんだろう』と、いう思いの露れ…
 すると突然、ザワザワと、心が騒めき始めてきた。

 え、わたしは二人に嫉妬をしているのか…
 ま、まさか、嫉妬なんてあり得ない…
 だってわたしは……
 いや、違う…
 わたしはこの嫉妬心の昂ぶりからの、彼、大原浩一を略奪するという独占欲を満たしたいのだから。
 


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