無料で楽しめるちょっと大人のケータイ小説

　92　絶望の涙

　佐々木ゆかりを大原浩一本部長から奪い、昔のきーちゃんや和哉のように愛でたい、抱きたい、愛したい…
　と、本気で欲情したのだ。

　だからさっき確認したら濡れていたのだ、欲情で下着を濡らしていた…


　でもこれは、ただの変態の淫乱女じゃないか…

　激しい焦燥感が心を激しく揺さぶってくる。

　ザワザワ、ザワザワ、ザワザワ…
　心の騒めきが激しく昂ぶってきた。

　ああ、ダメだ…

　ダメだ、ゆかりさんに完全に嫌われてしまった…

　嫌われたに違いない…

　帰ろう…

　とりあえず戻って、謝って帰ろう…

　言い訳したって分かってなんかもらえない…

　やはり、まだ、わたしには早すぎたのだ…

　心が落ち着くまで大人しくしていればよかったのだ…

　心の開放感にはしゃぎ過ぎなのだ…

　わたしは激しい焦燥感と自己嫌悪に陥ちてしまう。

　帰ろう…



「電話、出なかったの…」
　わたしはトイレから戻り、かろうじて、なんとかそう声を掛けられた。
　
「はい…なんとなく…」
　出る気になれなかったのだ…
　と、ゆかりさんがそう目で語ってきた。
　だがわたしはそんな彼女の目を見るのが精一杯であり、すぐに下を向いてしまった、とても彼女の顔をまともには見られなかったのである。

「あ、わたしも…」
　すると彼女も立ち上がり、トイレに向かう。
　そしてわたしはなんとなく、醒めた雰囲気を彼女から感じたのだ。

　その彼女のトイレの時間をすごく長く感じ、その間に、更に激しい焦燥感と自己嫌悪に陥ってしまっていた。

　もう後悔しか湧いてこない。

　楽しかった筈のこの時間のことなどは、どかに消え失せてしまっていた。



「ごめんなさい、お待たせ…」
　
「あ、うん…」
　わたしは返事をするのが精一杯であった。
　そして戻ってきたゆかりさんのどことなく優しい笑みを見た瞬間に、心の奥から自己嫌悪の想いが込み上げてきてしまう。　

「えっ、み、美冴さん…」
　優しい声の響きである。

「ゆ、ゆかりさん…」
　そして堪えきれずに目から、ツーっと一筋の涙を溢してしまう。

「ご、ごめんなさい…」
　それはわたしの心からの謝罪であった。

　謝ろう…

　そして帰ろう…

　もうダメだ…

　嫌われたに違いない…

　その涙は、謝罪と絶望の涙であった。