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シャイニーストッキング

第4章 絡まるストッキング3 大原本部長と佐々木ゆかり部長

 93 夜道…

「ゆ、ゆかりさん…」
 わたしはゆかりさんのその声の優しい響きを聴き取り、心が震え、堪えきれずに目から一筋の涙を溢してしまう。

「ご、ごめんなさい…」
 それはわたしの心からの謝罪であった。
 そしてその涙は、謝罪と絶望の涙であった。

「み、美冴さん、とりあえず出ましょうよ…」
 するとゆかりさんはわたしにそう声を掛けてくる。
 その声からは、やはり、なぜか優しい響きが感じられるのだ。

 怒っていないのか…

 いや、そんな筈はない…

 いや、きっと、怒るのを通り超して呆れているんだ…

 わたしはそう想いながらも頷いて返事をする。

 すると、なんとゆかりさんは、わたしがトイレに立っている間にお会計を済ませていたのだ。

 やはり怒っているのだ…
 
 わたしがトイレに立ったら直ぐにお会計を済ませている、それが何よりも怒っている現れなのだと思われる。
 そしてわたしはとりあえず慌てて涙を拭い、バッグから財布を取ろうとすると。

「とりあえず外に出ましょう…」
 そう云ってゆかりさんはサッと先に店を出た。

「ねえ、美冴さん、少し歩きませんか…」 
 するとわたしに有無を云わさぬ感じでそう云って、スタスタと先に歩き始めてしまったのである。

「…………」
 とりあえずわたしは、黙ってゆかりさんの後を追うように歩いていく。

 カツ、カツ、カツ、カツ…

 コツ、コツ、コツ、コツ…

わたし達二人の歩くヒールの音がリズムを刻みながら、夜道に響いていく。

「…………」

 カツ、カツ、カツ、カツ…

 コツ、コツ、コツ、コツ…

 ゆかりさんが少し前を歩き、わたしが黙って跡を歩いていく。
 その美しい、凜として歩く後ろ姿に、わたしは声を掛けられないでいた。

 カツ、カツ、カツ、カツ…

 コツ、コツ、コツ、コツ…

 国立競技場の脇を通り、絵画館前から神宮外苑方面へと歩いていく。
 今夜は台風が接近しているらしく、夜風がやや強く吹いており、ここのところの夜でも汗ばむような蒸し暑さは弱冠、弱まってはいた。

 時折、夜風がサーッ吹き、青々と茂っている絵画館前から神宮外苑の樹木の間を、風が走り抜けていく。

 カツ、カツ、カツ…

 コツ、コツ、コツ…

 するとゆかりさんの歩みが緩くなり、わたしの方を振り返る…






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