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シャイニーストッキング

第5章 絡まるストッキング4 和哉と美冴1

 75 5年前、あれから…(61)

 そうだ、わたしには和哉がいる…

 タクシーの後部座席に座りながら自暴自棄になりそうな心を、脳裏に浮かんだ和哉の存在がかろうじて止めてくれたのだ。
 元々、今夜はゆっくりと映画でも見て、食事をするようなデートをしようと思っていたのである。
 
 そう、とりあえず和哉に逢えば、逢えれば、少しはこのイラついている心の騒めきが落ち着くかもしれない…

 そして、待ち合わせの時間に少し遅れてカフェに着く。

「ごめんなさい、ちょっと出掛け間際に色々あって…」
 その時、和哉の顔を見た瞬間に、涙がこみ上げてきてしまい、スッと涙を溢してしまったのだ。

「えっ、み、美冴さん…」
 そんなわたしの溢れたひと筋の涙を見て、和哉は慌てた声を出してきた。

「あ、ごめん、何でもないから…」
「えっ、でも…」
 わたしはこの和哉の、純粋な、穢れのない、きれいな少年の顔を見た瞬間に、張り詰めていた心の壁が緩んでしまったようなのである。
 だがわたしは、嗚咽を漏らさないように必死に涙を堪えていく。

「…………」
 和哉は心配そうな顔でわたしを見てきていた。

「は、ふぅぅ…うん、もう大丈夫だから…」

「み、美冴さん…」
 戸惑いの顔でそう呟いてくる。

「ごめんね、何でもないから…」
 だがどんなに想像しても、高校生の和哉にはわたしの出来事については思いも浮かばないであろう…
 わたしはそう想いながら、なんとか気持ちを戻して和哉の顔を見る、そして必要以上に訊いてこない事がありがたかった。

「ねぇ、映画観ようよ…」
 わたし達は駅前の映画館に向かう。
 そして、『氷の…』というシャロンストーンというブロンドの美しい女優が主演のサスペンス映画を観ることにしたのだ。

「これ観たかったんだぁ…」

「は、はぁ…」
 だが和哉はこんな映画には興味が無さそうな声をしてくる。

 そして映画を鑑賞する…

 本当にこの映画は観たかったのだが、今のわたしの心境ではさっぱり映画に集中できなかった。
 いや、さっき事があったのだから集中できる筈がないのである。

 時折目の前のスクリーンに、あのマザコン母子の二人の姿が浮かんでは消え、そして映画の英語のセリフは全くといって耳には入ってはこずに、あの義母の神経質そうな声が聞こえてくるのであったのだ…





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