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シャイニーストッキング

第5章 絡まるストッキング4 和哉と美冴1

 87 5年前、あれから…(73)

 その証拠に昨夜和哉に抱き締められながら寝たら、うなされもせずに朝まで眠れたのである。
 
 もしも一人の夜であったなら一睡もできなかったに違いない、そして一晩中、泣き叫んでいたかもしれなかった…
 わたしはこの和哉という存在に、本当に助けられた、いや。助けられていたのだ。

「おはよう…」
「あ、美冴さん、おはようございます…」
 午前7時を少し過ぎていた。

「僕、バイト早番なんです」
「あ、そうか、じゃあ、一旦帰らなくちゃね…」
 和哉は起きて着替え始める。

「わたしは…今日はお休みだから…」
「あ、はい、知っています」
 そして和哉は、少し心配そうな顔でわたしを見てきたのだ。

 何があったかは知らないけど、大丈夫なの?…
 そんな感じの顔にわたしは感じられた。

「うん…
 大丈夫よ…ありがとう…」
 そう呟いた。

「は、はい…
 じゃあ、また後で…」
 
 またバイト終わったら…
 
 和哉の目がそう伝えてきたのだ。

「あ…」
 わたしはそう声を出し、部屋を出ようとする和哉に後ろから抱き付いたのである。 

「み、美冴さん…」
 そして和哉は振り返り、わたし達は口吻を交わしたのだ。
 そして舌を絡め合い、吸い合い、互いの想いを交わしていく。

 愛している…と。

「じゃ、後で…」
 そう云って和哉は部屋を出て行った。

 じゃ、後で…

 じゃ、またバイトの後で…

 そういう意味の和哉の言葉ではあろうが、これがわたし達の最後の会話と、キスとなったのである。


「和哉…」

 彼が部屋を出た後に、わたしはそのドアを見つめてそう、名前を呟いたのだ。

 かずや…

 そして唇に残る和哉の感触を…

 今さっき抱き付き、手に残る和哉の体の感触を…

 部屋に残る和哉の匂いと存在感を…

 しばらくドアを見つめながら想い返していたのである。

 昨夜、離婚届けに署名捺印をした。
 慰謝料の小切手と、領収書と離婚同意書にも勢いで署名捺印してしまった。

 もう終わりだ…

 あっという間に終わってしまった…

 もう終わり…

 そして、もうこの街にもいたくはない…

 この街の空気さえも吸いたくはない…

 だから…

 だから…

 和哉とも終わりだ…

 終わりなの…

 さようなら、かずや…
 




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