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シャイニーストッキング

第8章 絡まるストッキング7      本部長大原浩一

 42 懐古…

「うわっ、懐かしいなぁ…」

 私は『カフェバーオアシス』のドアを開けた瞬間にそう呟いた。
 そして店の中に入った瞬間に、まるであの27年前にタイムスリップしたかの様な錯覚を起こしてしまう。
 店内はまるであの頃のまま、全くといってよい程に変わってはいなかったのだ。

 そしてこの古ぼけた内装が、板張りの壁の煤けたヤニが、静かな時間の流れの積み重ねを伝え、漂よわせていた…
 そして私自身は静かな興奮を覚えていた。

「うん…と、最後に来たのは?…」
「そう…、確かわたしが大学生の時で、わたしの運転で来たのよ」
「うん、そうかも…」
 なんとなくだが覚えていた。

「あ、この席、よく座ったねぇ…」
「うん、そうだ…」
 店内は当時も古びた感じであったのだが、更に古びた感じになっていた。
 そして椅子もテーブルも当時のままであったのだ。

 あれから27年か…

 懐かしくて心が感傷的になってくる。


「ワイルドターキーのロックを」
「わたしはカシスソーダ…」
 私達は店の奥の角の席に座り、お酒を注文した。
 この席は、昔、よく座った場所であったのだ。

「お待ちどうさま」
 お酒が運ばれてきた。
 そして二人でグラスを手にする。

「うわぁ、まさか、こんな夜が来るなんてねぇ」
「うん、そうだなぁ…」
「ただ…あの頃はわたしはココア…
 で、コッペはコーヒーだったけどね」
「そうか…そうだったな」

「で…今はお酒…」 
 彼女がそう呟き、二人して目の前のお酒の入ったグラスを見つめた。

 そしてお互いにグラスを手に持ち
「うん、再会に…」
 チン…
 グラス同士の触れ合う音が小さく鳴った。

『大人になったら…
 お酒が飲めるようになったら来たいね…』
 あの時の言葉が脳裏に蘇る。

 まさか、本当にこうして二人でお酒を飲むなんて…
 心からしみじみと思っていた、そして時間の流れを感傷的に感じていた。






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