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シャイニーストッキング

第8章 絡まるストッキング7      本部長大原浩一

 74 あの街…

 電話口の向こう側であのゆかりが…

 あのゆかりが、泣いている…のだ。

 いや、厳密には、まるで泣いているかの様な…なのである。


 えっ…

「ゆ、ゆかり…」
 私は思わず名前を呟いた。

 今日は、今日も仕事じゃないのか…

 今、何処にいるんだ…

 会社じゃないのか?…

 周りは…大丈夫なのか?…

 あの今まで完璧に装ってきていたあのゆかりが、これ程までに心乱れているのだ。
 私はまた、違った意味で慌てて、そして心配をしてしまっていた。

 いったいどうしたんだ…

 こんなゆかりは初めてだ…

『あ…の…浩一さんが居るその街って…
 あの、○○ゆうえんち、のある街ですよね…』
 と、突然訊いてきた。

 そう、○○ゆうえんち…
 それは関東ローカルテレビ限定で比較的多くテレビコマーシャルが流れており、お祭りの音頭的な陽気で軽快な音楽に乗って印象的となり、知名度が高い遊園地であった。
 そしてその遊園地は、東京、神奈川、埼玉、千葉県等の首都圏中心寄りエリアと、群馬、栃木、茨城県等の小学生達が遠足で一度は必ずといっていい程に行く遊園地なのである。

 だから当然、ゆかりも知っていたのだ…

「ああ、○○ゆうえんちのある街だよ…」

『そうですよねぇ、本当に近いんですよね…』
 そう近いのだ。

「ああ、近いよ」
 在来線で1時間半以内…
 新幹線で約40分程度…
 で、来れてしまう近さなのである。

『ああ…、行っちゃおうかなぁ…
 浩一さんに…
 会いたい…逢いたい…です』
 そしてゆかりは、そう言ってきた。

 私はこの言葉を聞いた瞬間に、本気でゆかりに会いたい、逢いたい…
 と、思ったのである。

「うん…
 そうだ、そうだよ…
 私もゆかりに逢いたいよ…
 来なよ、おいでよ…」
 そう言ったのだ。

 さすがにこの時は、完全に、やましい、いやらしい、浮気心は消えており、脳裏いっぱいにゆかりの顔が、あの理知的な、凜とした彼女の顔が浮かび上がっていたのである。

「そうだよ、今すぐ来なよ、来いよ…」

 ゆかりに会いたい、逢いたい…

 本気でそう思っていた。

 今すぐ…

 抱きたい…






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