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シャイニーストッキング

第8章 絡まるストッキング7      本部長大原浩一

 153 ゆかりとの電話 ⑫

 私は2世帯住宅の母親側の客間に戻った。
 いくら2世帯住宅とはいえ、基本、弟夫婦の家と云えるのだ、だから本当にたまに帰宅する際は母親側の客間で寝るのである。
 
 
「あ、兄貴、明日の午前中って?」
 帰宅するとすぐに弟が訊いてきた。

「お見舞いは午後からだから、午前中の予定は無いよ」

「じゃあさぁ…」
 どうやら弟の11歳の小学5年生になる長男の『駿輔』の、つまりは私の甥っ子に当たるのだが、学童野球をやっていてそれを少し見て欲しい…
 と、言ってきたのである。

「監督してるのが兄貴の同級生の石川さんなんだわ…」
 と、いう事で明日、12日の午前中に学童野球の見学に行く事になったのだ。


「…と、いう事なんだよ」
 私はそうゆかりと電話で話していた…
 
 弟と帰宅早々その話しをし、私はすぐその後ゆかりに電話を掛けたのである。

 散々、ゆかりの愛への裏切り行為の罪悪感のせいだとは思われるのだが、なぜか声が聴きたくて堪らなくなり、思わず電話を掛けてしまったのだ…

「もしもし…」

『あら、もうお友達とはお別れしたのですか?…』
 間もなく午前0時になろうという時間にも拘わらず、ゆかりはまるで電話を待っていたかの如くにワンコールで出たのである。

 そしてそんな嬉しそうな声で、夕方の電話とは打って変わって明るく話してきたのだ…


 しかし、ゆかりの第一声である
『もうお友達とは…』
 に、少し胸がズキンと痛くなったのであった。

「あ、うん、さっき帰ってきたんだ」

『電話掛かってくるって思ってなかったから嬉しいわ…』
 ゆかりはそうテンション高めで応えてきたのだ。

『わたしもお友達とお話ししてたとこでしたの』
 そして続けてそう言ってきたのだが、私はふと、そんなゆかりの言葉に少しの違和感を感じたのである。

 ゆかりからお友達って言葉は初めて訊いたかも?…

「そうなんだ」
『えう、そうなの』
「どんな話しをしてたんだい?」
 私は軽く訊いてみた。

『ええとぉ、元カレのお話しでぇ…
 ヤらせちゃえって…
 ヤらせちゃえば大人しくなるからって…感じです』

 私は一瞬、ドキンとしてしまう…


 元カレって…

 ヤらせちゃえって…
 
 なぜか一瞬、私に対しての嫌味に聞こえてしまったのである。








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