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シャイニーストッキング

第8章 絡まるストッキング7      本部長大原浩一

 172 美容専門学校

 確かに、たまにアパートに帰った時は郵便受けには郵便物が一杯詰まっていて、よく確認せずに捨てていたし、そしてもしかすると当時の彼女が捨てていたのかもしれない…
 なぜならばその当時の彼女は部屋の合鍵を持っていて、定期的に掃除、洗濯を進んでしてくれていたからである。

 もしかしたら、あの彼女に捨てられていたのかもしれないなぁ…

「それは本当に知らなかった…
 ゴメン…」
 私は、心から謝った。

「うん、今更もういいし、しかも20年前だからね…」
 と、ノンは笑ってくれる。

「いや、本当にゴメンな…」
「いいのよ、それよりもその後に、最後にもう一度訪ねたのよ」
「え、そうなの?」
 ノンは頷き、話しを続けてくる。

「うん、次の春のわたしが美容専門学校に入学した時ね」
「美容専門学校か…」
「うん、わたしさぁ、代々木の美容専門学校に入学したんだ…」
「そ、そうなんだ」

「うん…」
 ノンはそう呟き、そして少し遠くを見る。
 それはまるで、あの頃を、あの頃に、意識を還している様な目であった。

「うん、もしかしたらさ…」
 …もしかしたらさ、東京の美容専門学校に通えばこうちゃんに会えるかなぁってさぁ…
 そのノンの言葉に、私の心は一気に震えてしまったのである。

 だって、音信不通になって…

 わざと『自然消滅』にして、そして1年経ったのに…

 それでも、もしかしたらって…

 心の震えと共に、一気に罪悪感が湧き起こってきた。


「それでさぁ、わざわざこうちゃんのアパートの近くに部屋を借りたのにさぁ、そしたらばもうこうちゃんは引っ越ししていたのよねぇ」

「あっ…うん…、そうだった…」
 そうなのであった。
 大学入学当時は代々木上原にアパートを借りていたのだが、余りにもサーフィンに夢中になってしまったが為に自動車、クルマが必要に、いや、必需品になってしまったのである。
 そしてボロクルマを買ったのだが、如何せん都内は、いや、アパート近辺の駐車場がべらぼうに高かったのである、その駐車場代はアパートをもう一部屋借りられる程であったのだ。

 だからその駐車場の為に、その代々木上原のアパートから八王子市の、しかも山側の方に引っ越しをしたのであった…
 


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