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シャイニーストッキング

第8章 絡まるストッキング7      本部長大原浩一

 175 慟哭の言葉

 あの日、大学入学直後に誘われた、正式な大学学連サーフィン部の新歓コンパでいきなり弾け、そこで知り合った先輩の女性のアパートにしばらく転がり込んだのである。

 そしてそのままプチ同棲を始めてしまったのだ…

 そのプチ同棲は、5月のゴールデンウイーク明けに自分自身でアパートを賃貸するまで続けたのである。
 そしてその4月初旬の大学入学直後から自宅に帰宅したのは、身の回りの荷物を取りに戻ったたった一日しかなかったのだ。
 
 既にその頃の自分の頭の中には、ノンという存在感は消えていた…
 いや、脳裏の片隅の端の奥深くにしまい込み、そして蓋を閉じて鍵を掛けてしまったのである。

 そう、その事は覚えている…
 だが、日々の、毎日の大学生活が楽しく、楽し過ぎてノンという存在をいつしか忘れてしまい、いや、記憶からさえも消し去ってしまったのだった。

「…………」

「だけどね、本当にあの頃はこうちゃんが大好きだったし、わたしの全てだったのよ…」

 ズキズキズキズキ…
 ノンのその慟哭の言葉が、次から次へと心に刺さってくる。

「それに本当に分かっていたから…
 こうちゃんを諦めようと何回も、何十回も、ううん何百回も思ったんだけど…」

「本当にゴメン…」
 謝るしか無い、無かった。


「あ…」 
 すると突然ノンは、ハッとした声でそう呟いたのだ。
 
 そしてさっきまでのまるで欲情したかの様な目の輝きもすっと消え、それと同時に私の脛に触れていたノンの爪先も離れたのである。

「あ、あぁ、ヤダ、やだわぁ、ごめんなさい」
 するとノンは、そう言ってきたのだ。

 え…

「あぁ、もぉやだわぁ、なんか何を、いきなりそんな事言っちゃったんだろう、あぁごめんなさい…
 まるで責めてるみたいで…」
 と、本当に恥ずかしそうな声でそういってきた。

「い、いや、それは…」
 
「ね、ねぇ、そんな今更ねぇ…
 もお20年も前の話しなのにぃ…」
 そう呟きながらグラスのビールを飲み干していく。

「ま……
 そのくらい昔はこうちゃんの事が大好きだったってお話しよ…」
 と、まるで、さっきまでの明るいノンに戻った感じでそう言ってきたのである。

「すいませーん、ビールもう1本くださーい」
 そしてそんな自分の動揺を誤魔化すかの様にビールを注文したのだ。




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