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シャイニーストッキング

第8章 絡まるストッキング7      本部長大原浩一

 176 20年前に…

「もうごめんなさい、こんなつまらない話ししちゃってさぁ」
 今度はそう、必死に、まるで言い訳するかの様に言ってきて自分でビールを注ぎながら呑む。

 しかし…

 そんなノンの姿が私には…
 まるで泣いている様な姿に見えていたのである。

 確かにもう20年前の話しではある…

 そしてお互いに若く、若い、青春の過去の思い出の日々と云えば云えるのだが…

 果たしてそんな感傷的な思い出話しとして済ませていいのであろうか?…

 私は、今、目の前にいるノンを見ながらそう思い、考えていたのだが…

「もお、だからぁ、ごめんてばぁ、そんな顔して見ないでよぉ…
 もう昔の話し、お話しだからさ…」
 と、私の心の思いを見透かしたかの様にノンは言ってきたのである。

「なんかぁ、暗くなっちゃったわねぇ…
 あ、そうだ、こうちゃんの今のお話し訊かせてよ…」
「え、今のって?」 
「うん、そうお仕事のお話しがいいかなぁ」

「あ、あぁ、うん…」
 そして私はだいたい掻い摘まんで近況の仕事絡みの内容を簡単に話した。

「うわぁ、それってぇ、すごい大出世って事よねぇ…
 だいたいその○○○商事の名前も、○△生命も知ってるしぃ、それの本部長やら出向役員だなんてさぁ…
 よく分からないけど凄いって事だけは分かるわぁ」
 と、本来の明るいノンに戻ってそう感嘆してきたのである。

「あ、うん、まあ、凄い…かもな」
「うん、凄いってぇ」

「でもさ、凄過ぎてさ、自分でもまだ全然実感が湧かないんだよなぁ…」
 これは本当の本音であった。
 ここ最近、この約一年間は余りにも上手く行き過ぎていて、半分以上は実感がまだ湧いてはいなかったのである。

「でもさぁ東京に出てさぁ、なんかさぁ、男の夢を叶えたみたいなさぁ…」
「いやそれは大袈裟過ぎだよ」

「ううんそんな事ないよぉ…
 やっぱりこうちゃんは凄いよ…」
 再びノンは目を輝かせてくる、だが、今度は欲情的な感じではなく、なんとなく、そうなんとなくだが『憧憬』の類いが感じられてきたのだ。

「やっぱりわたしの大好きだった、いや、大好きなこうちゃんは凄いよ…」
 と、言ったのである。

 大好きなって…

 今度はドキンと心が高鳴った。

 やばい…

 心があの頃の…

 あの20年前の思いに還っていく様であった…





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