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シャイニーストッキング

第8章 絡まるストッキング7      本部長大原浩一

 180 律子との電話 ⑩

 その律子の『アナタ』という言葉を聞いた瞬間に、一気に心が騒めき、昂ぶり、高鳴ってきたのである。

 ダックの…

 アナタの事が…

 そして脳裏には、この前律子に買って上げた一番大きな『ダック』のぬいぐるみの、あの、律子のベッドサイドに佇んでいるであろうあの物云う目が浮かんできたのだ。

『大原さん、アナタってどことなくダックに似てますわよね…』 
 そしてそんな律子の声が聞こえてきていた。

「え、そ、そう…か」
『はい…』

「そんな……似て…いるか?…」
 事等が続かずに思わずそう言ってしまう。

『はい似てますわ、特に…目なんか』

 少し前、越前屋からにも同じ様な事を云われた…

「そ、そうか…」
『はい、あ、ところでアナタは?…』
 て、唐突に訊いてきた野である。

 アナタは…
 そして、さっきから律子にそう呼ばれる度に、騒めきと高鳴りがますます昂ぶってくるのであった。

「あ、うん、ちょっと昔の友達とね…」
『あら、そうでしたか、それはそんな最中に電話しちゃってすいません』

「いや、全然構わないさ、いつでも掛けて構わないって…」
 確かに昨日、そう云った。

『確か明日がご法事でしたよね?』
「あ、ああ、うん…」

『ごめんなさい、その確認と、ダックを見てつい…』
 そう律子が言ったタイミングでノンが電話を終えて戻ってきたのだ。

「あ、うん、わかった…」
 おそらく私の声音が変わったのだろう…

『ごめんなさい、変な電話しちゃって、では、またです、おやすみなさい』
 さすが勘の良い律子は私の微かな変化を読み取り、気を利かせる様に電話を切ったのである。

「ああ、うん、おやすみ…」
 だが少しだけ、この最後に訊いてきた会話に違和感を感じたのだが、戻ってきたノンの事をなんとなく過剰に意識してしまい、慌てて電話をきったのだ。

「あら、彼女から?…」
 ノンは悪戯っ子みたいな目を向けながら訊いてきた。

「え、い、いや、違うよ、仕事のさ…」
 やはり私はウソが上手くはなっていないようである。

「ぷっ、そんな慌ててウソをつかなくたってさぁ」
 と、ノンは笑いながら言ってくる。

「あ、いや、ウソじゃない…よ」
 我ながら情けない。

「うそ、ウソ、こうちゃんモテそうだし…」

 更に意地悪な目を向けてくる…





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