短編集 一区間のラブストーリー
第18章 短編その十八
「佳彦!早くしなさい!遅刻するわよ!!」
ほんとにもう!
高校生にもなって
大人の階段を昇り始めてるという
そんな自覚がないのかしら。
息子の佳彦は朝寝坊の常習犯。
今朝もまた学校に遅刻しそうな時刻。
母親の佳代子は階下から
今朝3度目の怒鳴り声を
2階の息子に浴びせた。
「うるせえな!
今、用意してるんだろうが!!」
ようやく返事が返ってきた。
バタバタと着替えをしている音がする。
「ほんとに…もう何時だと思ってるのよ」
階段の下から2階を見上げながら
佳代子はため息をついた。
「やべえ!!また遅刻だ!!」
部屋を飛び出した佳彦は
大慌てで階段を駆け下り始めた。
だが、慌てていたため、
途中で階段を踏み外した!
「わあぁぁぁぁ!!!」
佳彦の体が宙を舞った。
「佳彦!!!」
階段の下にいた母の佳代子は
咄嗟に息子を受け止めようとした。
だが、自分の身体よりも
大きく成長した息子を
受け止めれるはずもなく
佳彦の体を抱いたのはいいが、
そのまま二人して床に吹っ飛んだ。
「痛ててて…母さん、大丈夫か?」
自分の下敷きになった母に
怪我はないかと心配した。
だけれど目に飛び込んできたのは
しっかりと胸に抱かれた自分の姿…
『えっ?』
「う…ん…」
胸にしっかりと抱いた自分(佳彦)が
目を開いた。
「はっ!佳彦!だいじょう…!!!」
息子を受け止めて
下敷きになったと思った佳代子も
状況の判断に戸惑った。
たしかに下敷きになっているのは母の佳代子。
だがそれを見下ろしているのも自分…
しっかりと自分(佳代子)の
胸のふくらみに抱かれてる感覚が…
「俺たち…」
「私たち…」
『入れ替わった?』
どういうことなのだ…
佳彦は慌てて自分の股間に手をやった。
だがそこにはあるべきものがなかった。