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神の口笛

第9章 9


「エマ…」


自分を説得するように、エマは深くうなずいてグレイを見上げた。


「必ず会いに行く。互いに生きてまた会おう。」

「うん。」

痛いほどに、しっかりと抱き合う。


馬車の運転手から「そろそろ…」と声がかかりやっと身を離した。


見えなくなるまで見つめ合っていた二人をつないでいた糸が、やがて切れた…―――








王宮までは、ガルダン基地から馬車と船を使って6時間以上かかる。

エマは基地から離れれば離れるほど、グレイが恋しくなっていった。

次はいつ会えるだろうか…。





王宮で待っていたのはエマが想像していた生活とはまるで違っていた。

王女であるエイミー様は、ブロンドの髪を上品にカールさせ、緑色のぱっちりとした瞳で微笑む。

肌は白く、もちろん体のどこにも傷などなく、ふっくらと豊かな身体をしている。まるでお人形のような人だ。


「エマ!待っていたの。話は聞いていたのよ、レイモンドから。」

エイミーには王族の嫌味が一切なく、実にフランクにハグをして迎え入れた。


「エイミー様…。これから貴方様をお守りするべく、…―――」

「んもーっ!カタイこと言わないでっ。私とあなたって歳が同じなのよ?それに、同じクベナ教。ねっ?」


それから2人はいろいろな話をした。

どうしてもと言うので、王女ともあろうお方を「エイミー」と呼ぶ事になった。


日の出から日の入りまではエイミーのそばで護衛につき、夜間は緊急でない限り普通に休めるらしかった。



「やあ、エマ!よく来てくれた。部屋に案内しよう。」

エイミーが下女にいれさせた上品な紅茶を2人で飲み、任務で来たのにこんな事をしていていいのだろうか?と思った頃、レイモンドが現れた。


せまく古びてはいるが、エマには1人部屋が用意されていた。2階にあるエイミーの部屋の、真下だ。


部屋の小窓からは芝生が青々と生えそろった庭が広くむこうまで見え、備え付けられた小さなドアをあければすぐに外に出られる。


4畳ほどの室内には、ベッドと小さな暖炉だけがあった。

軍の遵守事項であるためここでも避妊薬を服用し、テオヌになったらこの部屋にこもるため護衛は休みとなる。


1日の流れは基地にいた頃とそれほど変わりないが、自分1人だけの部屋というのがエマを嬉しくも寂しくもさせた。

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