甘い蜜は今日もどこかで
第1章 【本当は嫌なのに】
無事に終えて結果は後日らしいがもう目に見えているでしょ、とばかり勝ち気だ。
全部出し切った時は気持ちが良い。
なのに廊下でバッタリ副社長と会っちゃって。
さっきより顔がしかめっ面な気がする。
(な、なに…!?仕事はきっちりやったわよ)
「藤堂…さんといったかな?その、プレゼン…素晴らしかった、あそこまでうちの会社に詳しい者もそうそう居ない」
「は、はい…ありがとうございます」
「そ…その、キミがもし良ければなんだが、専属秘書として来てもらえないだろうか」
こちらも引き抜き………しかも直接。
何度も来てるから規約を把握してもらいたいのだが。
「あの、規約としまして、弊社の吉原を通して頂けないでしょうか?私の一存ではお答えしかねます」
良いのかしら、あなたが一番気にしていた人件費、正規雇用のおよそ3倍はかかりますよ?
「吉原?わかった、連絡してみよう」
「はい、宜しくお願いします」
何か言いたげな気もしたがすぐに社長にも捕まったので話が逸れてしまった。
スーツのまま会社を出て、迎えに来ていたジロウの車に乗り継ぎの現場へと向かう。
「藤堂さん!」と車の前で呼び止められ、振り返ると副社長だった。
走ってきたのか息が荒い。
大丈夫?
「他の何処よりも倍は出す、だから真剣に考えて欲しい、キミはうちに必要な人材だ」
「は、はい……ありがとうございます」
初対面の時と大違い。
しかも視線が熱い……体育会系?
「絶対に他の会社には行かないでくれ」
いやいや、私、便利屋です、他にも色々とクライアントが。
「あの、企業秘密は必ずお守りしますよ?外部に漏らすことは絶対にありません」
「違う、そうじゃなくて!キミを……キミを買いたい」
「へ?」
「いや、俺は何を言ってるんだ、そうでもなくて、正式に雇いたい…ということだ、わかってる、会社を通さなくちゃいけないことはさっき聞いたからな、ただ、今キミ本人に伝えたかった、また次も会えるように」
「会えますよ?此処で社員教育も仰せつかっておりますので」と笑顔で返す。
次の時間に間に合わなくなると困るのでそこで解散した。