甘い蜜は今日もどこかで
第4章 【届かない想い】
惹かれてる、確実に。
ジロウには残念ながら気付かれてる。
だからもっと気を引き締めなきゃ。
そのうち吉原さんにもバレたらもうおしまいだから。
ジロウはそんなことしないってわかってるけど甘えちゃダメだ。
こっそり自分で書いて仕舞っている
“退職願”
どうなるかわからないけど、この責務を全うしたら出そうと思ってる。
もうスペシャリストでも何でもないから。
せめて、給与泥棒にだけはならないように最後まで。
さて、今週はまだ残っていたレンタル彼女の仕事。
泣く泣くバイバイした副社長はさておき、また違う顔で臨まなきゃならない独占契約日。
常連さんである黒本さんの誕生日デート。
ただ一緒に過ごして欲しい……というオプションはナシだが時間はたっぷり買い占められている。
遠出したいとのことで行き先はつい3日前ほどに報告された“USJデート”
予定されている時間は朝9時から夜の22時。
かなり遠方なので少しだけ前倒しして朝の9時には電車に乗れている状態にした。
駅までジロウに送ってもらって改札口前で黒本さんと合流した。
「お誕生日おめでとうございます」
「ありがとう、良かった、来てくれて」
「え、約束したじゃないですか、アハハ」
「いつも来るまでビクビクしてる」
「そうなんですね、あ、敬語は……」
「うん、ナシで」
「わかった、じゃ、ゆずくん行こう」
私から手を繋いで改札口を通る。
黒本さんは嬉しそうに照れているけどギュッと手を握り返してくれた。
今日は彼氏が好きで好きで仕方ない彼女を演じる日。
自然と恋人つなぎになって終始笑顔で他愛もないことなんていくらでも話せれる。
「今日の服もめちゃくちゃ可愛い、凄くタイプ……」と褒めてくれた。
黒本さんはシックに黒のセットアップに中は真っ白なTシャツで似合ってる。
私はといえば、動きやすいように前ポケットの付いたハイウエストキュロットスカート(茶色格子)に白のフリルブラウス、厚底スニーカーだ。
厚底にしても黒本さんは見上げる位置に居る長身さん。
座席に座っても肩に頭を乗せたりくっついたりしてイチャイチャを演じて。
遠出だし長時間移動だから視界には入らないが近くでジロウも待機している。