甘い蜜は今日もどこかで
第4章 【届かない想い】
拙い笑顔で車に乗り込んだ。
何やってるんだろうな、私……って思い始める瞬間。
そんなこと全部ひっくるめて包み込んでくれるのがジロウだったけど。
今はその優しさは要らない。
早く一人になりたい、だなんて初めての感覚だ。
会社へ連絡するとメールで新しい仕事が飛び飛びで入っていて溜め息が出る。
秘書の契約が終わってからの仕事も。
どうしよう。
その場で吉原さんに連絡した。
出るかわかんないけどコールを続けた。
留守電に切り替わる直前で通話状態になる。
「藤堂です、お疲れ様です、吉原さんの都合のつく時で良いので近々会えませんか?会ってお話したいことがあります……はい、大丈夫です、わかりました……では明日」
一番早く都合をつけてくれた。
明日の夜7時に会える。
電話を切った後もジロウには何も言わずにいたらしびれを切らしてきた。
「椿さん、何かあったんですか?」
「…………ごめん、また今度言うね」
窓の外を眺めながらシャットアウトした。
それ以上は聞いてこなかったけど、ヘタレなくせに家まで着いてきて追い払うのも疲れて。
「感情がぐちゃぐちゃなままでいい!僕に当たりつけていいから話してください、僕じゃ役不足ですか?」
「どうしたの、ジロウ、私……喧嘩するつもりもないし疲れてるだけだけど?」
「嘘だ、何か隠してる、吉原さんにしか言えないことですか?また僕は後回しですか?一番近くに居たらダメですか!」
珍しく感情的ね。
言えるわけないじゃない、ジロウには。
散々お世話になってて辞めますって簡単に。
いや、お世話になってるからこそ始めに言うべきなのか。
もうわかんなくなってきた。
けど、結局壁を作っちゃう私は。
「何もないよ、ジロウ、眠いの、明日は昼まで寝るわ、夜は吉原さんと会うけど迎えは要らないよ、ジロウもゆっくり休んでね」
寝室のクローゼットに向かい、着替えようとしてるのに追いかけてきて抱き締めてくるのね。
グイっと押し返した。
レンタル彼女した後は絶対にこんなことしなかったしさせなかった。
「他の男の匂いついてるってば」と睨みつける。
それでも怯まないジロウはやけに本気で。