甘い蜜は今日もどこかで
第4章 【届かない想い】
「誰のこと考えてるんですか?何で閉ざすんすか……こんな時はいつも真っ先に僕を求めてきたじゃないすか……」
何で泣きそうな顔してるの。
こうなってせいせいしてるんじゃないの?
今はお願いだからそっとしておいて。
感情的になりたくないの。
ぶつけてこないで。
空気読むの得意じゃない、わかってよ。
「勘違いしないで?ジロウに対する気持ちは本物じゃないことくらいわかってたでしょ?ジロウだって弁えてたじゃない、これが理想としてた関係像でしょ」
堪らなくなって背を向けた。
これ以上顔見てたら傷付けてしまいそう。
「疲れてるの、帰って……また明後日ね」
「………わかりました、お疲れ様です」
初めて顔も見ずに、玄関まで見送らずにジロウを帰した。
プライベートの携帯には副社長から(会いたい)とメッセージがきている。
既読にしないまま読んで画面を閉じた。
「酷い顔ね」と第一声。
UNEEDの会社近くにあるカフェで吉原さんと落ち合った。
どんな顔をして会おうかギリギリまで悩んでいたからか、よっぽど酷かったらしい。
いつに増して完璧な吉原さんに対して、私はただただ頭を下げるだけだった。
珈琲が運ばれた後に暫くは今の秘書業務に専念させて欲しい旨を申し出た。
「ダメよ」
まさかの一言だったが引き下がる訳にもいかず。
聞いたら絶句するほどの理由だった。
「一つの場所に長く居たら、あんた惚れちゃうでしょ?情が湧いてまた更に延長お願いしに来るんじゃない?さすがにこれ以上の契約延長は無理よ、社員並みに働いてはダメ、どこか一つに肩入れしちゃダメ、あくまでキャストは限られた時間、限られた期間のスペシャリストであるべきなの」
確かに、他の仕事が入れば他のキャストを入れてもらって……という話だった。
自分から言ってこの有り様なのは格好悪い。
「最終確認だけど、惚れてないよね?あの副社長に」
真っ直ぐ見据えられる瞳に吸い込まれそう。
ここで認めてしまったらもう隣に居れなくなる。
責任を果たせなくなって丸投げすることになってしまう。
「短期集中でも出来ればなぁと思っただけです、教え込むことたくさんあるので」