甘い蜜は今日もどこかで
第4章 【届かない想い】
「意外と脆い椿だから?敢えてあの子を傍につかせたのよ、私より胸の内を明かしてたみたいで安心して任せてたんだけど今は頼れてないのかしら?」
「いや………近いからこそちょっと遠ざけちゃって」
「あら、可哀想、休日返上してあんたに付きっきりなんだからもう少し優しく接してあげて?ヘタレだけど中身は誰よりも芯の通ったオトコよ」
整った顔がウィンクする。
吉原さんが言うんだから間違いないだろう。
いや、そんなの出逢った頃からわかりきっていたことだ。
今改めて言われて完全に腑に落ちてる。
「ねぇ、椿、一番しんどい時に誰に甘えられるか…だよ?今は見えなくても必ずわかる時が来る、何もかもさらけ出せて腹割って話せる相手は誰なのか………もう答え出てるんじゃない?」
膝の上の重ねた手、強く握り締める。
ソワソワし出すのも視線が落ち着かないのも全部お見通しで。
「ほら、アイツ風邪引いちゃうから連れて帰りな?今度辛くなったら私より頼ってみなよ」
伝票を掴んで立ち上がった。
「あの、すみません、帰ります」
「うん、ゴチしてくれるの?ありがと〜」
ヒラヒラと手を振る吉原さんに深く頭を下げる。
会計してカフェを飛び出した。
隠れてるつもりでも私には見えちゃったよ。
背後からトントンしたら凄い驚いてて、まさかもうカフェから出てるなんて思わなかった?
コートの裾を摘んで離さない。
「ごめんなさい…」
肩を上げて謝る仕草に鼻の奥がツンとした。
「ううん、話、終わったから帰ろう」
「え……僕と一緒で良いんですか?」
「送ってくれないの?ジロウ」
「いえ、送ります送ります、その、怒ってませんか、やっぱり気になってついてきちゃったこと」
「ううん、帰りながら話すから」
「はい」
裾を摘んだまま、ジロウは私の歩幅を合わせてくれて電車で一緒に帰った。
途中でゆっくりだけど吉原さんに話したことを話したりして、頷いて全部聞いてくれた。
相変わらず手は私からじゃないと繋げない性格だけど今はそれで良いって思えるの。
「椿さんには僕がついてますから、安心して仕事して、また帰ってきてください」