甘い蜜は今日もどこかで
第5章 【もし間に合うのなら】
「ヘタレはどっちだよ……」
そう声に出すと少しだけ笑えた。
越えたい…?怖い…?
今は、失うことが一番怖い。
中途半端なままだし。
ただ、この感情の行方をまだ知りたくない。
動き出すにはまだ片付けなければならないことが私にはあるんだ。
待っててくれる…?
待ってて欲しい。
誰のものにもならずに同じ方向に向いてて欲しいなんて、私の驕りなのかな。
チン…と開いたエレベーター。
副社長が乗っていたからか、誰も乗ってこないので「乗られますか」と顔を出した私に安堵したのか、ゾロゾロと乗り出した。
副社長だけだと皆さん躊躇するみたいです。
それに対して不満を持っておられるようで毎回宥めるのよね。
「乗りたいなら乗りゃ良いじゃないか」
「怖い顔してるからですよ」
「俺が!?どのへんだよ」
「このへんです」
人差し指で眉間あたりを指したら
「椿にだったら怖い顔しない」って2人きりだと下の名前で呼ばれる。
「あの、やはりその下の名前で呼ぶのやめませんか?いつボロが出るかとヒヤヒヤしてしまうので統一しましょう」
「やだ、俺の唯一の楽しみ取らないで」
「私はまだUNEEDの人間です、万が一他の誰かに聞かれでもしたら副社長の立場も下げることになりますし、弊社の名前にも傷がついてしまうので」
「絶対にボロ出さないから」
その自信は何処から……?という視線を向けたところでエレベーターの扉は開いた。
先に出られて部屋に戻る際、
「明日朝一の会議資料持ってきてくれる?」と口実をつけてきた。
コピーしたものとタブレットを持ち、ノックする。
デスクまでお持ちした途端に手を握られ脚の間に立たされる。
「椿って毎日呼びたい、呼んだ後の真っ直ぐ返してくれる目が好き……どんな話にも耳を傾けてくれる……もうそんな椿ナシじゃ頑張れないの、俺」
握った手の親指で甲を撫でられる。
話題、変えなきゃ。
「今月末の代理秘書の件ですが」
平日の水〜金曜日まで別件の仕事で秘書業務から抜ける。
代理でトップクラスのキャストが入ってくれる段取りだ。
それは副社長も了承している。