甘い蜜は今日もどこかで
第5章 【もし間に合うのなら】
ジロウなりに解してくれてるみたい。
プロだってこと、もっと間近で見ると良いわ。
私が本気出したらどんなものなのか、その目に焼き付けてあげる。
撮影が10時スタートとなれば2時間前にはスタジオに着いてなければならない。
スタッフさんに優しく出迎えられ、誰よりも新人な私はジロウに連れられ挨拶回り。
終わればすぐにヘアメイクに入る。
向こうが用意した担当ヘアメイクさんなので何気に緊張していた。
「肌綺麗ですね、いつもどんな手入れされてます?」と気軽に声を掛けながらメイクに入られる。
「あぁ、そのメーカーめちゃくちゃ良いですよね、担当してるタレントさんもほとんどの方が愛用してますよ」と途切れることのない会話で盛り上げてくれているのかな。
終わる頃にはすっかり仲良くさせて頂いて色んなメイクの裏技術を教えてもらった。
可愛らしい30代の女性ヘアメイクさん。
やっぱりお洒落だ。
髪の毛を巻かれながら
「今回DAiKIさんじゃないですか、初めてだしドキドキしません?」とこの方もファンなようだ。
「そりゃ、もう、ドキドキですけど、とにかく撮影が滞らないように頑張ります」
「大丈夫、こんな綺麗に仕上がったんだもん、チュウのひとつやふたつ、綺麗に撮ってもらってね」
え………?
今、チュウって言いました?
ヘアメイクさんが部屋を出た後に慌てて台本を確認する。
キスシーンこそ書いてないものの、唇が触れる距離…とか鼻がくっつく…とかは書いてあるけれど。
今回、初めてこういった愛をテーマに書き下ろしたらしいので上手く把握出来てないところも。
ジロウがノックしてきて肩が上がるほどビクついてしまった。
バッチリメイクに白いシースルーのついたキャミワンピース姿の私を見て、また頬を赤らめている。
「えっと、撮影始まったらあまり話す機会もなくなると思うんで、その、サイン…とか決めときません?」
「え…?サイン…?」
「はい、何ていうか、お手洗い行きたい…とか、ちょっと休憩挟みたい…とか、スタッフさんには言い辛いこともあるかと思って……僕にサイン送ってもらえたらそうなるようにサポートしますし」