甘い蜜は今日もどこかで
第6章 【キミの隣に居たい】
アングルによっては映ってしまってるのもあるからそれはボツ。
なるべくボツを出さないように演者の私たちも切磋琢磨して必死だ。
「つーちゃん、もう少しこっちに寄れる?」と言われれば素直に従うし私からも寄り添う。
時々歌詞を口ずさみながら何度もキスシーンを繰り返す。
リハーサル以上に唇を重ねてカメラマンさんと意見を出し合って形にしていく。
手の位置や顔の角度、向き、舌を出すタイミング、目線等、全てに精神を集中させて曲と共にMVが一体化するようこの身をクライアントに捧げるのだ。
ギリギリのところまで。
その線引を全て担うのが吉原さんだ。
静かにモニターを見てる。
その隣にはジロウも。
真剣さ故に、ちょっとしたタイミングで緊張が和らぐと笑い合う。
リハーサルではなかった部分の完全に素に戻った瞬間もカメラはシャッターを切り続けている。
ただ、互いに照れてるところ。
「好き……好きだよ」
最後の歌詞に口の動きを合わせて切ない恋愛が終わりを告げる。
セフレだった関係に終止符を打ち、本当の恋人同士にやっとなれるってストーリーなんだって。
だから私もそれのアンサーソングじゃないけど口パクで「私も」って言うの。
そしてキスする直前の横顔。
唇との距離僅か数ミリってところで止まる。
DAiKIさんの大きな手で私を包み込んだら顔は見えない。
チューブトップだからアップで映すとお互い裸みたいになっちゃう。
DAiKIさんは上半身脱いじゃってるから。
なかなかの良い体つきしてる。
この日の為にかなり絞ったって言ってたけど仕上がり過ぎでしょってくらい筋肉質。
「オッケーでーす!お疲れ様でした!」
スタッフさんのOKが貰えて全ての撮影は順調に予定通りに終わった。
「つーちゃん、ありがとう」ってその場で抱き締められる。
一緒に作り上げた絆……みたいなものかな。
「良かった〜おめでとう〜」と感謝と尊敬の念を込めて抱き締め返す。
スタッフさんから花束まで貰っちゃって拍手で出演を終えた。
感極まって泣いてしまったのはここだけの話。
3日間という長い時間だったし、勿論不安もあった。
こんな大役、自分に出来るのかは正直自信もなくて。