甘い蜜は今日もどこかで
第8章 【ずっといつまでも】
早く帰ってジロウの顔見て話したい。
ジロウが浮かんで仕方ないのに。
__椿、落ち着いて聞きなさい
一瞬で周りの雑音をシャットアウトする。
全精神が耳に集中して吉原さんの声だけを拾う。
何かあったんだ、そう確信した。
__今そこに待機してるのは近藤なの、わかる?
「え…?近藤…さん?」
近藤さんとは、吉原さんの運転手さん。
どうして、私の現場に…?
ロータリーにハザードランプつけて停車している車から降りてきたのは仰る通り、近藤さんという男性。
勿論、顔見知りだし、神妙な面持ちでこちらを見ている。
__落ち着いて聞いて欲しいんだけど、ジロウが………☓☓☓☓☓☓☓
真実を聞かされて私は、その場で崩れ落ちた。
混乱してる。
待って、整理つかない。
気が付いたら目の前に居た近藤さんに食って掛かっていた。
「何でっ……ジロウが!?ねぇ、ジロウは?ねぇ、嫌だよ、置いてかないで…!」
「しっかりしてください!とにかく、病院へ行きましょう」
何で……ジロウは病院に居るの?
待機してくれてたんだよ?
戻ったら一言目は何て言ってくれるのかな、とか考えてたの。
いつも言ってんじゃん。
ジロウが居るから頑張れるんだって。
今日の私、遠くから見ててくれたんじゃないの!?
どうやって車に乗り込んだのかも覚えていない。
震えが止まらなくて、譫言のように「ジロウ…」と呼んでいた。
救急センターに向かう間に何度も救急車とすれ違う。
この音……レンカノ中にも聞いた。
え………?アレだったの……?
私、その近くに居ながら見向きもしなかった。
もしもアレだったとしたら、私………自分を許せないよ。
一番近くに居なきゃいけない時にレンカノしてたなんて。
一生後悔する。
「そう気を落とさないでください」とか言う近藤さんの声も耳に入らないくらい目が据わっていたと後から聞いた。
この時ほど自分を見失った事はない。
もつれそうな足を引きずり連れて行かれた場所。
吉原さんが来てくれて長椅子に座らされた。
「何でもっと早く知らせてくれなかったんですか?レンカノ中だからですか?命より大事な仕事なんてあるんですか?」
あ……ダメだ、コレ、止まんない。