甘い蜜は今日もどこかで
第8章 【ずっといつまでも】
「はい?」
「ハグ、させてください」
こ、ここで!?
絶対絶対、ジロウ見てるよ。
こんなの焚き付けでも何でもない。
今の今まできっと腸が煮えくり返ってるんだろうなって安易に想像がつく。
でも………断れない。
私は今、レンカノ中だ。
「勿論、良いですよ」
心とは真逆の声。
おそらくもう近くに居るだろう。
ギュッと遠慮がちにハグしてきた。
街行く人たちがチラホラ見てる。
これはオプション………
これはオプション………
そう言い聞かせてもジロウの顔が浮かんだ。
「俺って超ラッキーですよね、アキちゃんと最後にデート出来たんだから……無理ばっか言って、最後もあんなだし、何かもう……全部すみませんって感じだけど今日は本当にありがとう、アキちゃんじゃなきゃ成功しなかった」
「いえ、何が正解なのかはわかりませんけど、今日この場に居れて良かったです……どうか、幸せに……笑顔で過ごしてくださいね」
「ありがとう……ありがとう……」
最後は消え入りそうな声だった。
「大丈夫ですよ、関口さんなら」と太鼓判を押すと照れた笑顔を見せてくれた。
終了時間となり、本当にこれで最後。
でも私は敢えて言うの。
「バイバイ、またね」って。
何処かで会うかも知れない。
言葉を交わすかも知れない。
あっちゃいけないけど、またクライアントとして関わるかも。
次ももしかしたら…と含ませる。
少し驚いて優しく笑う。
背を向けた後ろ姿、見えなくなるまで見送るの。
帰ろう、ジロウの元に。
何を言われても受け止める。
それより早く会いたい。
触れたくてしょうがないよ。
タイミングを見計らったようにかかってくる電話。
待機場所を教えてくれるのかな?と画面を見ると、ジロウではなく着信相手は吉原さんだった。
この後話をする予定ではいるけど、先にかかってくるとは思わなかったから変に身構えてしまう。
その場で出た。
「藤堂です、お疲れ様です」
__関口さん、終わった?
いつも周りが騒がしい吉原さんだけど、妙に静かなところからなのと声も落ち着いていて少し違和感を感じる。
「はい、たった今終わりました、え?今日は事務所寄らなくて良いですよね?」