甘い蜜は今日もどこかで
第8章 【ずっといつまでも】
ケーキは皆さんと頂いて定時を過ぎてもパソコンとにらめっこしていた私に「今日くらいは定時で帰れ」と副社長に怒られてしまった。
ジロウが退院して、新規プロジェクトが始まってからは残業続きだった。
ここまで、というところまでは終わらせたかった自己満足の世界なんだけど。
「彼氏待ってるだろ」って帰らせようとしてくれる。
普段なら副社長が残られるなら私も、と気を張っていたが夜になると無性にジロウの顔を見たくなる癖はまだ直ってなくて。
全部見透かされているのかと観念する。
そうだ、私、今日誕生日なんだ。
祝ってもらって終わった気がしてた。
一番祝ってもらいたい人との誕生日、まだ出来てないじゃん。
お言葉に甘えて退勤させてもらう。
「椿さん」と運転席から顔を出して私を待っててくれた笑顔に疲れなんか吹き飛んでリセットされちゃうよ。
後部座席開けたら薔薇の花束とメッセージカードが。
“お誕生日おめでとうございます
最高の一年にしましょう”
文字を見つめたまま何も言わない私に若干慌ててるジロウが可笑しく思えた。
「やっぱり薔薇とかドン引きですかね?」ってまだ仕事モードのジロウ。
「ううん、嬉しくて言葉が出て来ないの」
それは本当。
泣きそうだよ。
私に隠れてこっそり買いに行ってる姿を思い浮かべるとヤバいからさ。
薔薇のお陰で車内がとっても良い香り。
「たまには外で食事でもどうですか」ってお誘いが。
報告メールを送った後にジロウと食事デートなんて今まで一度もなかったから凄く嬉しい。
夜景の見えるレストランを予約してくれていてびっくり。
え、ジロウってこういうことしてくれる人だったんだ?
火傷の跡はまだ見える。
首回りはタートルネックで隠せれるけど額はまだほんのり赤みがかっている。
あまり見られたりするのはまだ嫌だろうに予約まで頑張ってしてくれたんだね。
お家でも充分なのに。
「ありがとう、ジロウ」
「いや、まだだよ」
「ん…?」
「僕も慣れてないから勝手がわからないけど、今日は絶対に椿の誕生日をお祝いして伝えるつもりだった」
静かにテーブルに置かれた小さなジュエリーボックス。