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甘い蜜は今日もどこかで

第1章 【本当は嫌なのに】






「川原はダメだ、結婚して子供も居る」




開口一番こんなことを言うし、思いきり肩掴まれて壁側にドン。
肩ドン……とでも言うのだろうか。




「え……?」




川原さんはさっきお話していた男性秘書の方。
何をそんなに慌てて仰っているのか。




「社内恋愛は禁じてる訳ではない、だけど何も既婚者にいかなくて良いだろう?」




「ちょ、ちょっと待ってください、私と川原さんがどうのって思ってます?え、私が川原さんに好意を?一体どこをどう切り取ってそう思われたんですか?仕事、戻って良いですか?」




「待って、だって俺は避けてばかりなのに川原とは仲良さそうに話してたじゃないか、早く秘書課に戻りたくて呼び出しても素っ気ないしそそくさと帰るし」




えっと、本当に副社長ですよね?
本当に年上!?
呆れてものが言えない……ではなく、もう堪えきれず声を出して笑ってしまった。




「わ、笑うなよ!真剣なんだぞ!」




やめて、本当ムリ……あ、お腹痛い。
こんな子供っぽい人初めてだわ。
ごめんなさい、笑って。
顔を戻しても口元が緩む。




「お、おい、馬鹿にしてるのか?とにかく既婚者はやめとけ、良いな?」




「フフフ……はい」




「笑い過ぎだぞ」




「だって……副社長が……アハハ」




居ても立っても居られなくなったのか普段開けない窓を開けたりして、書類が少しだけ床に落ちた。
慌てて閉めて同時に拾う。
ほら、やっぱり指が触れたりして、目が合って。
そういえば10秒ルール、まだでしたね。




「本当は妬いた……俺じゃなくて別の男に笑顔向けてたから」




わぉ、ストレート過ぎ。
ガッツリ口説いてくるじゃん。
正直な人だから駆け引きとか苦手なんだろうね。




「契約は切られたくない、でもこれ以上の我慢は無理かも知れない」




書類を持っていた手首を握られ、咄嗟であっても避けれたはずなのに。
真っ直ぐ過ぎる熱意に身体が動かなくなったのは事実。
近付いてくる顔に一瞬、目を閉じそうになった。




でも、そんな時に浮かんでくるのはいつもジロウで。




パフッと掌でガードする。
至近距離で見つめ合って、匂いとかもうどうでも良くて。









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