甘い蜜は今日もどこかで
第1章 【本当は嫌なのに】
「次の会議、始まりますよ」
行き場のない熱い想いはすぐに冷やしてあげないと。
規約違反は侵せないの。
強引にキスしてこようとするから「ルール違反です」と喝を入れる。
まさか、こんな喝を入れる10秒間になるなんて。
「先に行って準備してますね」
立ち上がり部屋を後にする。
こんなことは慣れてるの。
だから長期契約はしない方向で動いていたのに。
吉原さんったら何考えてるのかさっぱり。
どうも、私はこういった方々から好意を抱かれることが多いみたい。
だから陰では色気使っただの、身体売っただの散々言われてきた。
実力なんて見てもらえない狭い世界に嫌気が差して大手企業も辞めた。
荒れた時期もあったけどやっぱり自分に向いているのは人と関わる仕事なんだなって思ったから吉原さんの一年に渡るお誘いに乗ってみたのだ。
そして、今に至るこの有り様。
微妙な空気のまま退社して、何か言い足りなさそうにしていたが笑顔でシャットアウトしておいた。
来週にはリセットされてますように。
今夜は悶々としててください……なんて。
クスッと笑ったら「何か良いことあったんですか?」とジロウが運転席から聞いてきた。
さっきからずっと笑ってたらしい。
「そういや扱いにくいって言ってた副社長とはその後どうですか?」
「ん〜?それがさ、結構子供っぽくて可笑しいんだよね、全然ナンバー2っぽくないの」
「へぇ、椿さんがクライアントにそんなこと言うの珍しいですね」
「そうかな?まぁ、1ヶ月過ごしてきてなかなかの人間性が見えてきた頃だよ」
「楽しそう……最初あんな嫌がってたのに」
「うん、楽しいよ、仕事もやり甲斐あるし」
「じゃ、延長されたらOK出すんですか?半年間って規約ですけど」
「うん、それはナイ」
「忘れないでくださいよ?この前あんな失態したんですから」
何も今蒸し返さなくてもって思うけど、ちゃんと正しいレールに戻してくれるのもジロウだから。
時々意地悪なことも言うけど、そういうところは少なからず頼りにしてる。
だからジロウがそう言うんならそうなんだろう。
何の疑いもなく「はーい」と返事した。