甘い蜜は今日もどこかで
第9章 【離れない永遠に】
「おい、お前、結婚って……俺と?おいおい、困ったな〜」
頭を掻きながら笑ってる。
噂ですよ、噂!!
何踊らされてるんですか。
No.2ともあろう人が。
「残念ですね、織部ではなく、小川なので、私」と頬を赤らめて言うと「いやいや、俺にもちょっとは惚れてたでしょ?」って皆の前で言われて、一瞬「え…」と真顔になってしまった。
それ、今言う?
ヤバ、リアクション出来ないなんて認めてるようなものだ。
「え……?」
皆さんも真顔に。
言った本人すらそこは誤魔化せよって顔だけど次第に真っ赤に。
「ち、違います、変な空気なってるけど違いますから、急に変なこと言わないでくださいよ副社長!」
「じょ、冗談に決まってるだろ!本当頼むよ、ハハハ〜」
誤魔化し方がクッソ下手な私たちに察しの良い秘書課の皆さんはふーんと頷きながら作業に戻られたが何を言いたいかは顔を見ればわかった。
副社長が去ってから両脇に付かれ
「絆されちゃったの?あの強引さに」
「揺れちゃった時期あったんだね」なんてニヤニヤされてしまう。
ここは潔く「もう過去なんで」と認めてしまおうか。
確かに何度か揺れた。
好きになりかけた。
好きになろうとした。
ジロウから離れようかと思った。
傷つくのが怖くて好意を寄せてくれる副社長に甘えてしまった。
あの部屋でキスもした。
何度も抱き締められた。
何度も告白された。
規約違反のオンパレードだった。
でも一線を越えられなかったのは私自身が中途半端だったから。
随分身勝手な女だったわけで。
結果、ジロウを選んだ酷い女。
それでもすぐには気持ちの切り替えは出来ない、好きで居させてくれ……なんて優しい言葉にまだ甘えてる。
「副社長、そろそろ会議のお時間です」
「うん、行くよ」
秘書である私がこうして同じ空間でその背中を見て歩くのもあと少し。
2人きりのエレベーター内で。
「さっきの話だけど、惚れた弱みで1つだけ言って良いか?」
「え…?はい」
「俺がここまで本気で好きになったの、椿が初めてだった、俺の遅過ぎた初恋かも知れねぇな」