甘い蜜は今日もどこかで
第9章 【離れない永遠に】
真剣な顔でそう言って笑うから
「遅過ぎですよ!」と私も笑った。
名前で呼ばれるのは久しぶりでほんの少しだけドキッとした。
「あーぁ、俺これから椿以上の女に出逢えるのかな?」
遠い目をして仰られるから
「私と比べないでください、出逢った人全て、その人の中身を見てあげてくださいね?」と言ったら目的の階に着いてしまう。
降りてもその会話は続く。
「出逢わなかったら?」
「出逢えますよ、自分を見失わずに行きたい場所に行けば景色も変わって見えなかったモノが見えてくるかも」
「同じ景色、見たかったな……」
会議室までの廊下を歩きながら足を止めたら、副社長も止まって振り向いてきた。
「見てますよ、今も……秘書である限り同じ景色を見てます、此処から先は副社長がいつかまた私に見せに来てくれるんですよね?お前が居なくても見れたわってドヤ顔楽しみにしてます」
こうして笑って話せる2人だからこそ別々の道を歩いていっても大丈夫。
あなたは更に上を目指せる人。
私はそのお手伝いをほんの少し担っただけ。
「ハハハ、本当、敵わないわ、藤堂さんには」
「はい、そうみたいですね」
柔らかな顔つきで会議室に入ってきた副社長に席についていた皆さんも始めは驚いていただろう。
次第にそれが浸透してきて信頼に繋がり組織が良い方向に動いていけると信じてます。
もう、大丈夫です。
新しい秘書も雇う予定でしたが、ニューヨークに行かれるということなので日本に帰ってきたら準備を進めるとのこと。
「ていうか、帰ってきたらまた藤堂さんを指名するんじゃない?」と先輩秘書の方が言う。
「いや、それはないかなって思います」
「どうして?副社長なら有り得るかも!?」
「いえ、彼がヤキモチ妬きなので」
「あ、ご主人が?あの顔でヤキモチ妬きなんだ〜?」
ご、ご主人………聞き慣れないし言える気がしない。
ジロウはジロウだもん。
危うく先輩の前で「ジロウが…」とか言いそうになる。
「結婚式には呼んでね!!」
はい、そのつもりです。