甘い蜜は今日もどこかで
第2章 【曖昧なカンケイ】
「こんなことくらいしか出来ないけど、お誕生日はゆずくんが…じゃなくて、私がゆずくんを独占するね?他の子とチェンジしたらヤダよ?」
「し、しないよ!知ってるだろ?俺、最初からアキちゃんとだけだって」
「うん、知ってる、浮気しないようにっておまじないしとくね?」
「え?」
擦り寄せた手の甲にチュッとキスをした。
オプションにはこんな行為は一切ない。
「ほら、早く行かないと別れ辛いよ」
「あ、うん……アキちゃんまた」
「うん、またね!」と握る手を引き寄せて軽くハグしてあげる。
最後の一秒までデートだからね。
心ホカホカにして帰ってください。
高評価お願いしまーす………最低だな、私。
でもこれが、レンタル彼女なのだ。
決して手に入れられない、架空の彼女。
お金で時間を買ってその対価に合った幸せを与えるビジネス。
終われば虚しいね。
見えなくなるまで手を振って、30秒ほどはその場で立ち尽くす。
携帯出してデート終了報告を済ませる。
もう待てなくなったジロウが私に近付いてくるだろう。
肩をトントンとされて「帰りましょう」って言ってくるはず。
そう思っていたのに、横からグイッと手首を掴まれ怒りに満ちた顔を見せてきた人物が。
いくらAIのような私でも想定外過ぎて一瞬、頭が真っ白になる。
「えっ…………………副社長!?」
たくさん人が行き交う駅前で必死に己の欲と闘っているような仕草。
ちょっと待って、もしかして私、今から副社長の相手しなきゃならないの?
ずっとツケてた?いつから見てた?
レンカノしてるか確かめに来たの?
え、え?どうなるの!?!?
ジロウも出るに出られない状況。
新たにクライアントが加わってしまった。
「今は俺だけの秘書じゃなかったのか?こんなこと他にもしてるのか?」
「痛っ………落ち着いてください、副社長」
「大変だったんだぞ、本当なら相手に文句をつけるところだ」
「それだけはやめてください、他のクライアントと関わることは契約違反です」
「それ言えば大人しくなると思ってるだろ」
「とにかく場所を変えましょう」