甘い蜜は今日もどこかで
第2章 【曖昧なカンケイ】
無理やりだが近くの喫茶店に入る。
ジロウにもメールして待機しててもらう。
「さっきの男に連絡してるのか?」
「違います、会社に連絡してるんです」
独占契約の意味、履き違えてない!?
思いきり時間外なんですけど!?
今はもう、秘書の私じゃなくて良いよね?
と言いたいところだけど露骨なのも今後に差し支えるので。
「あの、私、便利屋だってことちゃんと理解して頂けてますよね?」
「わかってる」
なら何でそんな怒ってんの。
付き合いの長い倦怠期カップルか。
吉原さん、返事ない。
わざと様子見してるに違いない。
どうするかは私に決めさせる気だな。
ピロン!と返信が来て見てみると
(ファイト〜)の一言でひっくり返りそうになった。
お高いスーツで少し目立ってる。
前髪が乱れてるの初めて見た。
珈琲を頼んだものの、ずっと睨まれてて小さくなってしまう。
勘弁してよ、何なの、この展開は。
「はぁ〜」て溜め息つきたいのこっちだから。
「レンタル彼女……なんだろ?今の」
「はい」
もう認めてしまおう、違反だって言ったら逆上するかも知れないし、面倒くさい。
「もう、ないよな?」
それは答えられない。
黙ってたら認めたことになるのかな。
すぐに珈琲はやってきた。
「あんなふうに男に期待させてデートしてるのか?俺の前とでは全然見せない顔だったな」
そりゃ、プロですから。
普段は秘書の顔してるでしょ。
甘い顔はデートの時だけ。
ていうか、見てたのか、最悪。
今からネチネチ説教?
早くジロウの元に帰りたい。
「藤堂さんが帰ってから気になって仕方なかった……すまん、気を悪くさせてばかりだな、俺は」
いきなり怒って落ち着いてきたら謝る……DV気質?なんてね。
とにかく笑って誤魔化そうかなって思ったけどなかなか一筋縄では行かない。
「嫌なんだよ、やっと一緒に働けた俺の右腕が他の男に愛想振り撒いてるの」
私は彼女か。
いやいやいや、便利屋!
べーんーりーや!!
そんな弱々しい目で見られても何も出ませんよ。
「まぁ、でも、これが私の仕事ですので……秘書業務に支障をきたす真似はしませんのでご安心を」