テキストサイズ

甘い蜜は今日もどこかで

第2章 【曖昧なカンケイ】






「藤堂さん」




「はい」




ん……?あれ……?もう10秒ルール?




「ハァ、可愛い」




「え、何ですか?聞こえませんでした」




「可愛い……好き……食べちゃいたい」




「セクハラですね、報告しておきます」




「わぁ、ウソウソ、いやウソじゃない、本当だけどそれだけは勘弁して」




「朝からどうしたんですか?眠れませんでした?スッキリしてませんね」




「眠れないよ、藤堂さんのこと考えてて」




「私はグッスリ眠れましたよ?」




本当は私も色々考えて寝付きが悪かった。
全部ジロウのせい。
でもそれを顔に出さないのがプロですから。




「俺、動悸激しいんだけど、藤堂さん見てると」




「すぐに病院を手配します」




「あ〜違う違う、つまり、藤堂さんで俺のメンタルが保たれているわけ」




「このくだり何ですか?朝一でする会話じゃないですね、仕事始まってますよ?この資料、必ず10時までに確認してくださいね?後で取りに参りますので」




「うぅ、わかった」




クライアントだから冷たくあしらうのはどうかと思う。
でもポーカーフェイスさせてくれないからこうなっちゃうの。
まったく、有り得ない方向から矢が飛んでくる感じ。




珈琲をお持ちしたら早速資料を見つめていた。
そんな顔も出来るのに継続してくださいよ。




ちょっとだけ見直したらすぐに後悔する羽目になる。
この時はそんなこと知る由もなく。




会社の50周年式典が間近に迫っていた矢先に前社長が心筋梗塞で救急搬送され、副社長には病院へ向かってもらう。
私は副社長の抜けている間の仕事を代わりに補填していた。
前社長とは何度もご一緒にお仕事させて頂いていたので容態が気になるところだが私は与えられた仕事をこなす義務がある。




長い手術は8時間にも及んだらしい。
一命は取り留めたものの、高齢で術後に耐える免疫機能が著しく低下していて油断出来ない状況だということだ。
交代でお見舞いをし、意識が一時回復したが翌朝早くに息を引き取った。









ストーリーメニュー

TOPTOPへ