甘い蜜は今日もどこかで
第2章 【曖昧なカンケイ】
副社長の顔色は悪く、祖父を慕っていただけにショックは大きいだろう。
私も訃報を聞いた時には覚悟していたが涙を堪えきれなかった。
お通夜も葬儀も普通に振る舞ってはいたが張りつめた糸がいつ切れるかわからない状態なのは確かで。
私も喪服に身を包み、受付や手伝いをしていた。
ほら、そんな私にも気付いてない。
遠い目をしている。
泣き崩れる人に声を掛けて頭を下げている。
無事に葬儀を終えて、車を出して貰えるか私に電話してきた。
同じ場所に居るのに余程堪えているのか周りも見えていない状況だ。
会社に戻ると言う。
こんな時はゆっくりしてもらいたい。
でも、この場に居るのが辛すぎるのもわかるから。
そっと隣に立ち、秘書課から借りていた車に乗せた。
「藤堂さん来てくれてたんだ、ごめんね、業務外だね」
「いえ、前社長にはお世話になっていましたので当然のことです」
「ん………藤堂さんのことめちゃくちゃ気に入ってたもんね、ハハハ」
「会社に戻っても急ぎの仕事はないですよ?全て片付けてありますので」
「さすが優秀な秘書さんだ……ありがとう」
「着くまで少し眠っててください」
「うん、ありがとう」
泣きそうになっているのを堪えて窓の外に向いてしまった。
気付いてないフリをして車を走らせる。
会社に着いて無言で部屋に入られた。
お茶をお持ちするとようやく泣き崩れる副社長に手を差し伸べたのは自分自身だ。
背中が震えてる。
椅子でもソファーでもなく、地べたに膝から落ちて嗚咽する。
背中を擦って手を握ってしまった。
幾つであっても家族を失うのは張り裂けるほど苦しい。
泣けない人なら尚更。
「誰も居ません、私もすぐに忘れますから今は思いきり泣いてください、スッキリするまでお付き合いします」
涙も鼻水もぐちゃぐちゃの顔で私の手を握り返した。
言葉にならずに泣きじゃくる。
気付けば胸を貸していた。
大きな身体を丸めて声を出して堰を切ったように。
やっと泣けましたね。
よく頑張りました。
私も堪えきれずに一緒に泣いた。
震える肩も抱いて、まるで子供をあやすように背中をポンポンして手を握り合った。