甘い蜜は今日もどこかで
第3章 【どんなに焦がれても】
「椿さん、朝ですよ」
「ん………?えぇ、なんで?休みじゃ〜ん……」
モゾモゾと布団の中に隠れても剥ぎ取られて「ジム行きましょう」って正気か!?
あれ以来、送迎でしか接してなかったけどよく来れるよね、心臓強過ぎでしょ。
「ほら、起きて、顔洗って」
「わかったわかった!」
あまりにもしつこいからガバッと起き上がったらかなり至近距離で目が合う。
顔が近い、吐息が掛かりそう。
サッと避けたのは私で寝室を後にする。
歯を磨いていたら近くに来た。
「ジロウ、タオル取って」って気怠く言ったら「ハイ!」と元気な返事。
めっちゃ笑顔で渡してくるけど素っ気ないのはすっぴんのせいだから。
Tシャツの裾引っ張るな。
「やっぱりあの時、何かあったんですね?」
ジロウってこんなにネチネチしてたっけ?
両手で正面から目隠ししたらその口は黙るのかしら。
「いくらジロウでもすっぴんはあまり見せたくないの、女心わかって?」
「あ……すみません」
目隠ししたままチュッと触れるだけのキス。
「用意するね」
「はい……」
こんな時にジムだなんてね。
身体が鈍るといけないからってジロウと2人でジムに入会したんだっけ。
最近は仕事が忙しくてなかなか行けなかったけど、ここで持ってくるとは。
ジロウには怪しまれている。
それとなく誤魔化さなければ。
他の人は100%バレないけど、ジロウだけは無理っぽい。
唯一、心を許してる相手だから。
私は女性トレーナー、ジロウは男性トレーナーがついて怠けていた分みっちり扱かれる。
情けない声が隣の部屋から聞こえてくるけど、ジロウだよね?
苦手なのに誘ってきて、どうにかしてこの前のこと聞き出そうとしてるのかしらね。
でも言わないよ。
これは、私の中だけで留めておかなければならない私情なの。
ジロウが知ったらどうなるかわかんない。
予測不可能な行動に出るから。
私をいつも困らせて放置する。
いい加減もうウンザリよ。
「なに?もうヘバったの?男のくせにだらしなーい」って誂ったら雄叫びあげてトレーニングコースで身体を虐めてる。
単純だけど扱いにくい。