甘い蜜は今日もどこかで
第3章 【どんなに焦がれても】
何で良い汗流した私がジロウ抱えて帰ってるの……?
ヒョコヒョコとびっこを引いて筋肉痛に耐えている。
「あっ…あっ…すみません」って情けない声してわざと脇腹突いてあげたら「ギャッ!」と叫んで爆笑した。
「椿さん、どこも痛くないんですか?」
「うん、余裕」
この後でも泳ぎたいくらいまだ体力残ってる。
帰りは私が運転するよ。
そして、私の家に戻り、ソファーの上で湿布を貼ってあげている。
「ごめんなさい、こんなはずじゃ……」
「ジロウの方が相当鈍ってたってわけだ?」
「はい、すみません」
湿布薬を片付けた後、床に座って、ソファーの上のジロウには背を向けたままもたれ掛かる。
「あのさ、この前のこと気にしてるみたいだけど本当、何もないから……ただ、放っておけなかっただけ、大事な人を亡くす痛みを少しだけ空いてる手で抱えてあげたかったっていうか、自己満足なんだけどさ」
「そこに恋愛感情がなければ問題ないです」
「恋愛感情?何それ、美味しいの?」
「またそうやっておちゃらける……イテテ」
「ジロウってさ、本当………まぁいいや」
「え、何ですか?言ってください」
本当、何考えてるかわかりそうでわかんないねって話。
単純明快な部分がほとんどだけど、肝心な核までは見えなくてぼやけてる。
私もそうなんだろうけど、ズルい生き物だよね、人間って。
いっそ、猿に生まれたかったな〜なんて。
いや、やっぱ猫か!?
「え?何ブツブツ言ってるんですか」
「あれ、心の声漏れてた!?」
アハハ…と笑えば手を取られて嫌でも向かい合ってしまうよね。
急に土足で踏み込んでくるジロウの悪い癖、出てるよ。
「僕は、椿さんのこと、信じてて良いんですね?」
「ん…?何それ、この可愛い顔は私のこと疑ってたの?心外だなぁ」
「誤魔化さないでください」
「誤魔化してるのはどっち?ジロウ、こんなことまでして私の懐に入って来ようとするけれど、マネージャー業務を越えているように思わないの?可愛いなって思ってたけど自分だけ与えてもらおうなんて虫が良すぎる話ね」