甘い蜜は今日もどこかで
第1章 【本当は嫌なのに】
「邪魔なの?」
「いえ!そんな、滅相もない」
「早く、早く♪」
「はい、あ、あれ?やっぱり髪の毛乾かしてない、グラタン温めてる間にドライヤーしましょう」
結局、何もかも甘やかされて、我儘に嫌な顔ひとつせず付き合ってくれる。
それがジロウなのだ。
食べながら口元についちゃうホワイトソースを会話しながらササッと拭いてくれたり、グラスが空く前に注いでくれる。
それでちゃんと話も聞いてくれてるから私はストレス溜らずぐっすり眠れてる。
「え、椿さん、飲むんすか?」
「一本くらい良いでしょ?やっぱり飲みたくなってきた」
缶ビールをプシュッと開けて喉に流し込む。
「一本だけっすからね?酔っ払うと厄介なんで」って言うジロウの唇を塞いだ。
ビビリの男にこれはだいぶハードルが高いと思うけど、これはもう少し距離を縮めたいがためのミッションなの。
口移しで飲んだビールのお味はどうですか?
耳まで真っ赤にして固まるジロウを見て笑う。
「あの、僕、車なんですけど…」
「うん、帰らないで良いじゃん、明日もどうせ迎えに来るんだからゲストルーム使えば?」
「いや、此処に泊まったりしたら吉原さんに何言われるか、一口くらいなら大丈夫だと思うんで僕、帰りますね?わわっ…!?」
服ごと引き寄せ2回目の口移し。
テンパるよねぇ、キャパオーバー?
これくらいで笑わせないでよ。
「あ…いや、あの」
動揺し過ぎでしょ、童貞じゃあるまいし。
3回、4回……と流し込んで唇を離した。
「はい、もう立派な飲酒でーす、代行呼んだらブチ切れるよ?」
「そ、そんな……椿さぁん……」
「今日レンカノしたのわかってるでしょ?そんな日は一人にしないで……」
「で、でも……これは違反っす……吉原さんに最初そう言われましたから」
真面目か。
あの人なら言いそうなことだよ。
別にセックスする訳じゃないんだし。
いい大人同士なんだから弁えてりゃそれで良いでしょ。
「ジロウ、私、一人になりたくないって言ってんの、ジロウ以外にこんなこと言えないの知ってるくせに」
「わ、わかりました……」
「ジロウの服も買ってあるから」
「えっ!?」