甘い蜜は今日もどこかで
第1章 【本当は嫌なのに】
あぁ、ジロウだ……癒やされる。
夜の混み合う時間帯まで働いたから正直脚が棒だ。
「椿さん目当ての客来てましたね」
「え、見てたの?いつから?」
「エヘヘ、ちょっと早めに迎えに来ちゃってました、その制服着てる時の椿さんめちゃくちゃ輝いてるんで」
ただのコスプレ好きかよ!
馬鹿ジロウ!
ムスッとしてカーテン閉じたら慌てて機嫌取ろうとしてくるから「着いたら起こして」と拗ねちゃまに。
わかってる、私は疲れがマックスになると優しいジロウに八つ当たりしちゃったり可愛くない部分を曝け出しちゃったりとかなり痛い女になっちゃう。
甘えたいくせに意地が邪魔して。
着替えて寝てるフリしてたけど心地良い運転で本当に寝落ちしてしまっていた。
フワフワと揺れて薄っすら目を開けると大きくて広いジロウの背中におんぶされていてマンションの中を歩いている状態だった。
「ん………ジロウ、家着いたの?」
「あ、起きちゃいました?もう着きますよ、11階なんで」
私の荷物まで持っておんぶして、部屋の鍵も開けてくれてソファーへ降ろしてくれる。
「先にお風呂入っちゃいます?それともご飯にしますか?」って新婚夫婦の奥さんが言うセリフじゃん。
「お風呂」と言うと着替えセットもバスタオルも用意してくれてお風呂にお湯も溜めてくれる。
「じゃ、椿さんが入ってる間にチャッチャとご飯作っちゃいますね」
これは…………あかん。
ジロウを飼ってしまっている。
至れり尽くせりで生活能力が皆無になっちゃうよ。
髪も乾かさないまま、キッチンに向かうと長身のジロウがエプロン着けて何かを作ってる。
ネットレシピを見てるの?可愛い。
そっと近付いて後ろからハグすると、いつも予想以上にビビるから面白い。
「ひゃっ!つ、椿さん!びっくりした!もう〜何なんすか!包丁持ってなくて良かった〜」
「今日は何?あ、ポトフ!」
「あと椿さんの好きなグラタンもありますよ」
「ん〜ジロウ〜ありがとう」
「はい、もう少しで終わりますから待っててくださいね」
「ん〜ヤダ、このまま待ってる」
「えっ!?それはちょっと……」