甘い蜜は今日もどこかで
第3章 【どんなに焦がれても】
「藤堂さん…!」
忌引き休暇を終えて戻ってきた副社長。
うん、顔色も良いですね。
「お世話さまでした」と言ってデスクに座り早速仕事に取り掛かっている。
珈琲をお持ちして私もいつもの業務に戻った。
休暇中、連絡がなかったわけではない。
ただ、副社長自身が「もっと頑張って会社に貢献してもう1段階上にあがってみせるから隣で支えてくれるか?」と仰られたので規約延長も視野に「吉原と相談してみます」と答えた。
心を入れ替えて仕事に打ち込もうとしているところに水を差すのは違う気がして。
勿論、もうあんなことはしない前提で。
UNEEDの一員としてクライアントに対して最大限の力になるだけ。
正式な答えは契約が終わってから出すことにしている。
だから、甘えてこられても極上のスマイルで牽制するしかない。
キスに応じてしまった自分の尻は自分で拭わなきゃ。
「トップに立とうとする人がこんなことしていたら足元掬われちゃいますよ?宣言したからには本気で私も秘書として取るべき行動に出ますので今後は控えてください」
「ご褒美もないの?」
「ご褒美とは?」
「藤堂さんの笑顔」
「では、出せるように努力致します」
「あと……」
不意に顔を近付けてきたから咄嗟に避けた。
「何で?」じゃないでしょ。
「私、副社長を本気で社長の椅子に座らせたいんです……約束してください、それまで余所見しないって……もし本気でないんなら今すぐリタイアされた方が…」
「うぅ……痛いとこつくなぁ……前向きな答えだと受け止めて良いの?」
「え……?」
「藤堂さんの前向きな答え、最後の日に聞ける?」
「それは副社長次第……です」
「うん、本気で気張ってみるからいつも近くで見てて?」
「はい」
契約期間内は精一杯、全身全霊サポートします。
それが私に与えられた仕事だから。
副社長に対しては少し騙す形になるかも知れない。
でも、地位と名誉は与えてあげる。
私を踏み台にして更に上を目指して欲しい。
勝手にケジメをつけてごめんなさい。