甘い蜜は今日もどこかで
第3章 【どんなに焦がれても】
吉原さんに相談すると意外にも延長はナシだと判断された。
お金に目がないと思ってたのに。
「椿にしてもらいたい仕事は山程あるのよ〜?早く戻ってきなさい、あ、それとも何?延長しても良いかな〜なんて思っちゃったわけ?あんなに嫌がってたはずだけど」
鋭い眼光にドキッとしたがいつものポーカーフェイスで。
「いえ、今の副社長にはもっと上目指せるだろうなって思ったので……そうですね、クリア出来るか残り日数で調整してみます」
「あら、仕事熱心だこと……さすがうちのエースね」
予め契約を結んでいた期間は半年間。
残り日数は約2ヶ月、およそ60日。
いや、無理ね。
私と同じ量を頭に叩き込ませるなんて普通の人には無理難題だわ。
偏差値30で東大へ受験させるくらい無謀なことよ。
「あの、私の代わりに秘書業務出来る者は手配出来ますか?出来れば同じスペックで」
「そんなの居たらうちはもう少し儲かってるわよ」
「そうですか」
「あんたがもう少しそこで働きたいって言うんならまぁ、ちょこちょこ別件は入れるけど無理ない程度に契約延長しても良いけどあちらは何て仰ってるの?」
「延長を希望されています」
「ふーん、そうね、なら会って話すしかないわね」
「え?来られるんですか?」
「延長するには色々書類に判子押してもらわなきゃならないし、こちらとしても再確認することもあるしね〜今度行くわ」
「はい、日程は調節して折り返し連絡します」
「オッケー」
いつに増して軽いな。
吉原さんは本当、何を考えてるか、何を言ってくるのか読みづらい。
調子を狂わせる天才だと思う。
実は何もかもお見通し……みたいな雰囲気で落ち着かない。
頑張れ、私、流されるな。
ただの美魔女だと思え。
副社長とも相談し、早い方が良いだろうとのことで比較的時間の空いている水曜日の午前中に吉原さんと会うことになった。
勿論、私も同席してのご相談という形になる。
いつもと違う、大人のフェロモンだだ漏れな吉原さんのスーツ姿に社内はザワついた。
立ち尽くす社員たちにニッコリ微笑まれたら漫画みたいに堕ちていくだろう。
こう見えてかなりの凄腕社長だからね。