甘い蜜は今日もどこかで
第4章 【届かない想い】
「はい、相模様と居ない間にあった出来事はそれくらいです」
「わかりました、適当に誤魔化しておきます」
「恐れ入ります」
どんな些細なこともきちんとクライアントと情報共有しなければならない。
お互いの認識にズレが生じてはいけないからだ。
後になって聞いていない、教えて欲しかった…などとトラブルにならないよう細心の注意が必要だと思う。
「もしまた何かあればあなたを指名しても良いですか」
「はい、ありがとうございます、また指名して頂けるようにどんなオプションでも対応出来るよう頑張りますね」
「僕も、出来ればあなたとは離婚したくないので」とレンタル妻としてリアルっぽい冗談も言ってくる。
だから私も薬指の指輪を指して
「私も、出来れば外したくないです」と笑ってみせた。
「ハァー、現実であなたみたいな人と出逢いたかったですよ、今日はすみません、少し酔ってますので本音が漏れてしまいます」
「どうなんでしょうね…?現実だと幻滅されちゃいそうです、私」
「いえ、例えどんな部分を見せられてもきっと恋に落ちちゃうんでしょうね、でも僕とあなたはこんな形でしか出逢えなかった……それが一番悔しいです」
「私は、こんな形でも出逢えたことに感謝しています、嘘っぽく聴こえるかも知れないですけど内気だった過去の自分には自慢出来るくらい幸せですよ」
「ハハ、皆さんに言ってるものだと思っておきます、じゃないとちょっと自分を保てないので」
あからさまに窓の外を眺めてしまったカイトさんの手に自分の手を重ねてみる。
ビクっとして再びこちらを見てくれた。
「ほんの勇気だと思います、今度もし良いなって思う人が現れたらご自身を否定するのではなくまずは肯定してあげてください、普段頑張ってきた自分に神様がくれた出逢いのチャンスだと思って勇気出してみてくださいね」
最後の1秒まで幸せに浸っていて欲しいから。
「僕にも出来ますかね……あなたみたいな妻を見つけることが」