甘い蜜は今日もどこかで
第4章 【届かない想い】
「ほら、もう帰りなさいってば」
「待って……今日の椿さん、遠くから見てても綺麗でした」
「はいはい、わかったから、明日ね」
グイグイ押すのにちっとも動かないじゃない。
真っ直ぐ見ないでよ。
ジロウに押されてるとか、読まれてるとかめっちゃ恥ずいじゃん。
「僕は…?僕、似合ってます?コレ」
そう聞かれて思わず顔を上げてしまった。
完全なる不意打ち、狙ってたでしょ。
ほろ酔いだからじゃない、赤くなる頬。
もしくはこうなるのを待ってた…?
「どうしてそんな赤いんですか?酔いが回っちゃいました?」
咄嗟に俯いたけど覗き込んでくるデリカシーの無さ。
「格好良いですか」ってそう言わせたいの?
格好良いよ、ドストライクだよ。
けど「全然」と言っちゃう可愛げのない私を許して。
「なんだ、残念……褒めてくれるかなって期待しちゃったんですけど」
「ほら、もう帰って、メイク落とすし」
「えっ?じゃ、最後にもう1回見ても良いですか?今日の椿さんめちゃくちゃ綺麗なんで」
「はっ!?散々見たでしょ、ちょっと、あんま近付かないで…っ」
シュン…となってすぐヘコむ。
やめて、それ。
いつもの、シて欲しいの…?
でもいっぱいいっぱいな私は両手で自らを隠して。
「本当、今日はごめん、勘弁して?ジロウ直視出来ないの、ストライク過ぎてヤバいから、ごめん、本気で規約とかクソ喰らえって思っちゃうダメな私だから煽らないで」
あぁ、何言ってんだろう、ドツボだ。
隠してた掌に柔らかい唇が当たる。
え、何これ……掌越しのキス。
普通のキスより心臓がヤバい。
「僕もたまに同じこと思ってます」
そう言われて私の中のあと僅かだった理性がプツッと音を立てて切れた。
その口塞いであげるのは私なの。
もうダメじゃん、同じこと思ってた時点でアウトだよ。
帰したくないって溢れちゃう。
どの時より今が一番激しいキスをしているのかも知れない。
どんどんダメになる。
髪もぐちゃぐちゃになるくらい求めてしまうの。
「ハァハァ……止めなさいよ、ジロウ……いつもの調子はどうしたの?また私の我儘にするつもり?だったら止まんないわよ、覚悟出来てるの?」