甘い蜜は今日もどこかで
第4章 【届かない想い】
まるで自分に言い聞かせてるようなセリフ。
受け止めながら熱っぽい視線どうにかしてよ。
あんたがそんなんじゃ、必死に我慢したのが水の泡になるじゃない。
「ごめんなさい……始末書、書きます」
「バカ、そんなんで許されるはずないでしょ」
「素直じゃない椿さん見て……くだらない嫉妬覚えちゃいました」
「え……?」
「クライアントの相模様にはあんな笑顔だったので……勿論、仕事だからとわかっています、オフになれば僕にも向けてくれていた笑顔がないってだけで……僕は……すみません」
下を向いても私にはキス出来るのよ。
ヤダ……まだ舌出してよ。
握る拳に触れて指を絡ませた。
私の方こそごめん。
冷静になるから少し待って。
コツンと頭を胸に預けた。
これ以上は本当に止まらなくなる。
どっちかが本気で止めないと。
流されるパターンだけはどうしても避けたい。
まだセーブ出来てるもん、ジロウ。
ムカつくけど、絶対に今は私が負けちゃう。
「今日はこれで帰ります……温かくして寝てくださいね?」
頭上でそう声がしてホッとした。
大丈夫、キスも本当はダメだけど、ちゃんと踏みとどまれた。
「うん、じゃ、明後日」
「はい、おやすみなさい」
大好きなジロウがもう行っちゃう。
帰ってって散々言ってたくせに矛盾だらけの自分。
「うん」と返事しながらまだギュッと上着握っちゃってる。
「椿さん…?」
「あ、あぁ、うん、ごめん……おやすみ」
パッと離れるの本当は嫌だな。
けど、仕方ない。
ちょっと激しいキスで満足しちゃってさ。
こっちは全然ムラムラしてますけど!?
「僕が出たらすぐ鍵全部かけてくださいね?」
まぁ、そこがジロウの良いとこか。
「わかった、気をつけてね」
「はい」
閉まる瞬間までドアの向こうで覗きながら手を振っていた。
それを笑いながら見送る。
数分前まであんなキスしてたのに。
また一人だけ悶々……か。
衣装を脱いで掛けて、シャワーを浴びた。
メイクも落として素の自分に戻る。
本当はまだ全然飲み足りない。
ほろ酔いどころかシラフだよ、シラフ。
プシュッと缶ビール開けて飲めちゃう1人だけの時間。