甘い蜜は今日もどこかで
第4章 【届かない想い】
有り得ないくらい判りやすく真っ赤になった私を皆さんが囃し立てる。
室長はあくまで冷静に対応しているけど、まさか一番身近だと思っていた人とそんな噂されてることに驚きと恥じらいと、申し訳なさとが入り交じる。
室長に対しては尊敬の念しかないよ。
当たり前だけど。
もう一緒に歩けなくなるから勘弁して。
「はい、この話はその辺までして仕事片付けるぞ」と助け舟を出してくださってこの件は終わったけど、社内メールですぐに室長から(ごめんね、こんなおっさんと噂立てられて、以後気を付けるけど何か言われたり仕事しにくくなり始めたらすぐに報告するように)と送られてきた。
何でもスマートに対応してくれるのは有り難い。
(こちらこそ、ご結婚されているのに変な噂が立ってしまいすみません、以後気を付けます)
お互いなるべく自然体で居るようには心掛けてはいたが、この男だけは何処で聞いたか知らないけどすぐに呼び出された。
「失礼します、お呼びでしょうか」
デスクに座られていたので近くまで行くも、長い脚は組み、肘掛けにつきながらトントンとこめかみを押さえて私を見上げている。
お怒りポーズ……とでも言うべきか。
「あの、副社長、何か?」
「ねぇ、何で俺じゃないの?」
「はい…?」
「何でアイツと噂されてんの?」
“噂………あぁ、室長とのことでしょうか?あれはたまたまです、何の根拠もありません、そんなの真に受けたんですか?”とでも言いたいけど、こちらにも否はあると思いますので。
「申し訳ございません、今後はそのような事が起きないよう気を引き締めて…」
「もう他の男連中には良い顔しないで」
「えっと、といいますと…?」
「俺だけが知ってる顔を見せないでって言ってる」
さっきからピクリとも動かない強い眼差し。
根も葉もないただの噂に過ぎないのにどうしてここまで。
「言ったよね、アイツは既婚者だって……はぁ、何でよりによってアイツなんだよ」
「あの、お言葉ですが、室長の方が迷惑を被ってらっしゃいます、私の至らない点でした、それは謝りますけど室長を悪く言ったりしないでください、決めつけは良くないと思います、室長ほど仕事に真摯な人は居ません」