狂愛の巣窟〜crossing of love〜
第10章 【狂愛の巣窟〜ラスト・シーン〜】
久しぶりに感じる亨さんの体温にまた泣きそうになった。
グッと堪える。
ダメ……今泣いたら絶対バレる。
肩を震わすわけにはいかない。
亨さんの寝息が聞こえてきた頃にそっと離れて寝ました。
でも、少し考えると何だか腹が立ってきて。
一体どういうつもりで接して来てるのか。
ただのセックスレス?
勃たなくなったなんて嘘。
ちゃんと反応していた。
亨さんの考えているお仕置きが途轍もなく壮大なケースなら。
私はこのまま従うべき……?
それとも、反論する?
私だって怒りに触れたらきっと何するかわからない。
人より随分ハードルは低いけれど、私がキレたらどうなるのか。
誰も知らない。
この鳥籠の中では本当の自分なんてあってないようなもの。
「熱はないね?良かった」
朝一番に熱を計られ、平熱を確認される。
亨さんが作ってくれた卵粥を何口か口に運び、心配しながら支度をしている。
「今日もなるべく早く帰るから、もし買って来て欲しい物とかあれば連絡してね?」
「うん、大丈夫、行ってらっしゃい」
キスは出来ないからハグだけ。
気付いてる……?亨さん。
今、私たち、確実に心がすれ違っているよ?
何でもない顔して、心は離れていってる。
もう仮面の夫婦だね。
少なくとも私は、もうあなたがわからない。
所詮、他人だから。
荷物をある程度まとめておいて良かった。
この身ひとつで出て行くから。
慰謝料を請求するなら連絡がつくところをメモしておく。
指輪も外して、サインしておいた離婚届。
書きたくなかった、本当は。
渡されたくないから置いていく。
愚かな私を許してとも言わない。
この後家を出たらまずは有紗に連絡して、事情を話して理解してもらわなければ。
この子が結婚するまでは母親でいる為に残しておいた貯金も全部、渡してあげなきゃ。
これで………合ってるよね?
間違ってなんかないよね?
捨てられるのが怖いから私は逃げる。
あなたの元を去ります。
ごめんなさい。
話し合いもしないで勝手に決めて。
大好きだった。
苦しいくらい。
他の人に抱かれても変わらず愛してくれたこと、その思い出だけは持って行かせて。
後は何も要りません。