雪女
第4章 あられと雪乃
「ねえ、なるとくん。私の時とあられの時、分かりやすくするために合図決めよっか」
あられに取り憑いている雪乃が言った。
「私が話すときには言葉の前にそっと息を吐くとか。どう?」
「うん。わかった」
僕は少し笑った。
本当はそんなことしなくても分かるようになっていた。だけど、あられの言うことは全部聞いてやりたくて、提案に頷いた。
事故現場で初めて会った者同士が、僅かな時間で相手を理解して好きになり恋人になる。
しかも片方がもうすぐ死ぬという局面でだ。
そんなことは有り得ない。
雪乃は死を目前にして『恋も知らないまま死ぬのは淋しい』と言った。だから目の前に居た僕に恋人になって欲しいと頼んだにすぎず、僕は僕で、何とか元気づけようとして、『喜んでなる』と言ったのかも知れない。
そんな極限の状況下での約束が効力を持たないことは、法的にも立証されている。
だけど、車内のあられが押し上げた負傷者を、僕が窓の外から引き上げるという共同作業の中で、僕達の意思は通い合っていた。なにより雪乃自身が重傷を負っていたのに人を助けずにはいられなかった事を知り、彼女の精神の気高さ、強さに僕は強く惹かれていた。
僕が『喜んでなる』そう言って握り合った手と手には震えるほど深くて確かなものが通いあっていたのだ。
だからこそ僕は、握り返される力と共に失われていく彼女の命に涙した。
あられに取り憑いている雪乃が言った。
「私が話すときには言葉の前にそっと息を吐くとか。どう?」
「うん。わかった」
僕は少し笑った。
本当はそんなことしなくても分かるようになっていた。だけど、あられの言うことは全部聞いてやりたくて、提案に頷いた。
事故現場で初めて会った者同士が、僅かな時間で相手を理解して好きになり恋人になる。
しかも片方がもうすぐ死ぬという局面でだ。
そんなことは有り得ない。
雪乃は死を目前にして『恋も知らないまま死ぬのは淋しい』と言った。だから目の前に居た僕に恋人になって欲しいと頼んだにすぎず、僕は僕で、何とか元気づけようとして、『喜んでなる』と言ったのかも知れない。
そんな極限の状況下での約束が効力を持たないことは、法的にも立証されている。
だけど、車内のあられが押し上げた負傷者を、僕が窓の外から引き上げるという共同作業の中で、僕達の意思は通い合っていた。なにより雪乃自身が重傷を負っていたのに人を助けずにはいられなかった事を知り、彼女の精神の気高さ、強さに僕は強く惹かれていた。
僕が『喜んでなる』そう言って握り合った手と手には震えるほど深くて確かなものが通いあっていたのだ。
だからこそ僕は、握り返される力と共に失われていく彼女の命に涙した。