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もうLOVEっ! ハニー!

第20章 秘密のシャーベット


 だって、口は災いの元って言うからさ。

 司は悪夢から目覚めると、頭を抱えて脳内で反芻する言葉に目を閉じた。
 今しがた見た夢が、形を崩しながら意識を研ぎ澄ましていく。
 ゼイゼイ、と音がすると思ったら自分の呼吸音だった。
 だって三階はあまりに静かだから。
 自分しか音を発しないんだ。
 乾いた口を開き、そっと床に降りる。
 二学期が始まってから、何日休んだだろう。
 昨日は一日寝ていた気がする。
 鳴海に呼ばれていたのを思い出し、急いで服を着替える。
 Tシャツとジャージでいいやと廊下に出て、階段を降りていく。

 医務室をノックすると、すぐに扉が開いた。
「おはよう、司。寝不足の顔ね」
「受験生らしいよね」
「何も飲んでないでしょ。そこに座ってくれる?」
 ブラウスにタイトスカート、上から白衣を羽織った鳴海の手招きに素直に従う。
「夏休み中は研修とか実家のことで留守にしていたんだけどさ。司には負担かけちゃったなって思ってたの」
「清のことですか。なる先生は何も悪くないし」
 つばを飲もうとしたけれど、あまりに乾いた上顎がひりついた。
 急いでテーブルの上のグラスに注がれた麦茶を飲み干す。
 フーッと大きく息を吐いた。
 ソファの感触が気持ちを落ち着かせる。
 でもすぐに頭の血管がキューっと狭まっていくような頭痛がした。
 頭を押さえると、隣に座った鳴海が優しく手を乗せた。
 冷たい掌が、すーっと痛みを取り除いていく。
 目を閉じて深呼吸をしてから顔を上げる。
 鳴海は微笑んで手を下ろした。
「すっごく抱えてるね」
「……僕らしくない」
「ううん。司は確かにいつも明るくて、汐里の弟みたいだけど、十八歳の男の子なんて悩んで当たり前。暗くなって当たり前。抱え込んで当たり前よ」
 言い聞かせるように、歌うように。
 その言葉がまっすぐに入ってくる。
「やっぱり、あの日のことは、まだ辛いよね」
 辛い?
 辛いから頭が痛むのか。
 それとも罪悪感なのか。
「わからない……あの、もし、二人のどちらかが悪いってなったら、傷害罪とかで捕まっちゃったりするの? なんて、へへ」
 鳴海はしばらく答えなかった。
 時計の音がやけに響く。
 早く返事をと顔を上げると、悲しげな視線とかち合った。
「正直何も証拠がないの。二人とも相手を責めないし。捕まらせたりさせないわ」

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