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もうLOVEっ! ハニー!

第20章 秘密のシャーベット


 大人の目は時に恐怖だ。
 何もかも知っているような空気を携えてるから。
 司が俯くと、鳴海は言葉を続ける。
「本当は夏休み中に、こうして司と話したかったの。遅くなってごめんね。汐里は無理させないようにって料理休ませてると思うけど、いつでも司の料理が楽しみよ」
「僕はもう、人に何かを振る舞うなんて無理だから……なる先生。おかしいと思わない? 人って秘密があると口を閉ざすくせに、何かを食べたり飲んだりするときは平気で大口を開ける。それが災いのもとになることだってあるのにね。ね……本当、変わらないものが好きなのに。変わっちゃうから。母さんの料理だってね、甘かったのがどんどん苦く辛くなってって、違ったんだよなあ」
「司。どうして、人に振る舞えなくなっちゃったのかな」
「料理を食べると人って素直になるんだよ。美味しい、とか、まずいとか。熱いとか冷たいとか。本当に正直に言葉が出てくる。それって結構面白くて。もちろん元気付けたいとかもあるよ。アニキの料理は本当に元気が出るし、天才的。僕って別に相談係にはなれないし、探偵にもなれないし、思いついたのが、食べさせることしかなくて。でもまさか、大会の日になんてね。ははは、ガクに顔向けできないって」
 まだ夢の中にいるのかな。
 こんな意味のないことを話して。
 現実だとしたらちょっと冷や汗だよ。
「大会の日のビーフシチュー食べた?」
「ううん。ストックはあったけど、なんか手付けらんなくて」
「すっごく美味しかったのよ。みんなお代わりしてた」
「すげえ。あの人すげえや。人を幸せにする味っていいよね。マイスとかさ、マシュマロまで手作りしてんだよ。で、新しいデザート開発する機会まで……くれたから」
 だから、ジェラート作って。
 結構みんなに好評だったりして。
 美味しいってだけで、清に食べさせても良かったのに。
 それだけで済まなかったのは、なんでだっけ。
「あのね、なる先生。僕、清とずっと受験勉強頑張ってたんだよ。毎日。でも急に……別々になってさ。おかしな音が聞こえるようになって。中学まで貧乏だし、飯も作ってもらえなくて、ガリだったし、友達いなくてさ。あ、暴露ゲームでもう話したっけ。いいや。とにかく、清とガクだけは失いたくなかったはずなんだけど」
 だったんだけどな。
 なんで、あんなことしたんだろう。

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