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もうLOVEっ! ハニー!

第20章 秘密のシャーベット


 スタジオに着いたのは一時間後。
 関係者用入口の近くに止まり、ドキドキしながら車から下りる。
「今日はねー、特集もあるから人が多いよ。かんなちゃん? あたしの後ろから離れないでね。ほらみんな行くよー」
 パスを翳して自動ドアが開く。
 十階建てのそこは、スタジオだけでなくいくつか会社も入っているようだった。
 静かな白い廊下に緊張が高まる。
 エレベーターで三階に上がると、急に人が多いエリアに出た。
 モデルとマネージャーらだろうか。
 目を引くファッションに溢れている。
 二十名ほどがエレベーターホールで談笑していたが、そのうち一人の顎髭が長い男性がこちらに気づいて近づいてきた。
「おはようございます、咎さん」
「おはよ、小脇。このシャツ懐かしいねえ。二十年前のだろ。物持ちいいな、相変わらず」
「今日の主役はあたしじゃなくて、この子らなんで。オーディション枠の錦くん」
 ルカが先に一歩出て選考の礼を伝えてから、岳斗を紹介した。
「どうもね、咎です。歳は君らの三倍。ルカとアンナのデビューからよく現場を共にしてるよ。錦くんデカいねー。あとバランスがいい。撮影中は恥ずかしくなるくらい褒め倒すのがオレ流だから、ね」
 岳斗の背中をポンポン叩きながら。
「プロの現場で貴重なお時間いただいちゃって、ありがとうございます」
「なーによ。緊張してんの? 君、関西畑だろ。敬語崩れてもいいからさー。声もいいんだから。ほら、横向いて。うんうん、肌もばっちし。ルカ、手入れさせたの?」
「咎さんイチオシのケア用品お渡ししましたよ」
「いいねー。いいねいいね。じゃあ撮影は二時間後だから、それまでルカとアンナの見学してて」
 颯爽と去っていった背中を唖然と見送る。
 それから小脇の案内でメイク室に向かった。
「ごめんねー。かんなちゃん紹介する暇もなかったわ。あの人がカメラマンね。君の彼氏を褒め倒すから、参考にしとくといいよ。本当に気持ちよく撮ってくれる人だから。あ、緋鷺さーん」
 扉を開くと同時にメイク師に、挨拶に向かう。
 ルカとアンナは顔馴染みのようで、すぐに話に花を咲かせた。
 なんだか全てが早送りのようです。
「見て、かんな」
 隣のガク先輩の声に振り向くと、両拳をグーにしている。
「緊張で開かん」
「あはははっ、大丈夫ですよ」
 その手を包むと、なんだか安心した。

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